2016.10.



 仕事から帰宅すると旭が「残念なお知らせがあります」と私に言ってきた。どうしたの と聞くと「ギー君が死にました」と教えてくれた。ギー君とは上田中の盆踊りの日に参加 賞として頂いたクワガタで、それ欲しさに集まった子供たちと旭はジャンケンして、負け て負けて残った中からやっと貰った小さなコクワガタのこと。本人は世界で最も体長が長 く人気があるギラファノコギリクワガタに似ていると言い張り、名前を「ギー君」と名付 けた。このギー君、最初はプラスチックの容器に輪ゴムで留めてあるだけの状態で飼って いたため夜になるとガリガリ不気味な音をたてるし、容器から逃げ出し真っ暗な部屋の中 をブンブン飛び回ったりして困らせていた。次の日の夕方になって机とカーテンの間にい たところをママに見つかり、程なく虫かごに移され買ってきた昆虫キッドの中で飼われて いた。旭は毎朝起きると決まって机に置いてある虫かごを覗き「見あたらんねぇ。おる? おる?」と聞きながら餌をやり霧吹きで水をかけて世話していた。

 着替えた後、夕食の席に着くと旭がいない。呼ぶと隣の寝室から返事がした。部屋に入 ると旭は重ねた布団の上に大の字になって真っ暗な天井を見上げていた。思いつめた顔で 「かなしい」と言うので、「あっ君、悲しい時は泣いていいんよ。ギー君の為に泣いてあげ て」というと、声を上げオンオン泣き始めた。私がギー君はどこ?と尋ねると、ママと一 緒にマンション前のプラタナスの根元に埋めてあげたそうだ。思い出しては泣き、TVを観 て笑ったかと思うとまた泣き出した。「パパ、マラソンの練習行くときに木の側に行ってお 祈りしてあげてね。そこにギー君がおるけ。」と言うのでそうしてやった。夢にギー君が現 れるといいなと言ってやっと寝た。

 翌朝、旭が近寄ってきて小さな声で「ギー君出てきた。でも目覚ましで消えちゃった」 と残念そうに教えてくれた。

 金木犀の香りが一斉に街中に広がった日の出来事でした。
昇より



















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