2011.07.

「商品」


 現在「こどもの広場」にはいったいどのくらいの本があるのか?
 8月の棚卸しをしてみないと詳しいことは不明だけれど、少なくとも10000冊くらいはあるだろう。
複数册のものもあるが、大体みんな違う本。
世の中は本で溢れている。
それなのに中学生の25%は一ヶ月に一冊も本を読んでないなどという報告もある。

 先日ある出版社の30年来の友人Tさんが訪ねてきた。
営業一筋。
「お互い30年前は若かったけど」
そんな始めからいつでも面白かった本の話で夢中になった。
自社の本は当然すべて熟知。
新刊が出ると真っ先に読んでは辛口で、でも愛のこもった内容解説をしてくれる。
「営業」と言えば自分のところの物を沢山売るのが仕事。
一歩間違えば何でもいいから沢山売りたいということになる。
その人が言った。
「僕は今まで、一度も『うちの本』のことを『商品』と言ったことはないけど、今では出版社の営業が『うちの商品』なんて言うのを聞くと悲しくなる」。
確かに、一冊一冊が誰かの手に渡った時その読まれ方は様々で、同じタイトルでも100通りの違った出会いがあるもの。
それが本。

 そう言えば行きつけの魚や野菜など新鮮で美味しいものを売っている近くの個人商店でも、おじちゃんが
「うちのスイカは萩産だから他のスイカとは違うよ!」
と胸はって自慢していたっけ。
その後スーパーにいったらアナウンスで
「本日の入荷商品のうちお薦めは地元産新鮮野菜です」
などと言っていた。
『商品』というといかにも偉そうだけど、そこには中身を熟知して本心「良い」と言い切るだけの気持ちはついていかないのかもしれない。
『本』は『本』だ。
『商品』というには余りにも私の手を離れた後の買って行った人との関わり方が違いすぎる。

 棚から一冊の本を手にする。
そこに腰を降ろして娘を膝に載せて読み始める。
親子の世界はアッというまに空へ、野原へ行ってしまう。
二人の幸せな時間はなにものにも代え難い。

 Tさんはもう「じいじ」と呼ばれるおじいちゃんになっていた。
「週末はたいてい家にみんな集まって賑やかだよ。
 夫婦、子ども3人に連れ合い。
 そして孫2人。10人さ」
「いいね、そんなに仲良くて」
という私に
「そりゃーそうさ、3人の子どもたちの本だけはなんでも買ってやったからね」と。
自分の仕事に誇りを持ってやり通して来た同業仲間に乾杯!


横山眞佐子












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