2012.01.

「書籍」


 今から約30年前、本屋のことも商売のことも何も知らないまま、子どもの本屋を始めようと思った。
本屋になるためにはどうしたらいいのか本を読んで勉強した。
何千冊もある本を読んでどれをお店においておくのか決めるのも楽しくてしようがなかった。
本の好きな子育て中の同年齢の人たちがたくさん友人になって助けてくれた。

10年目に危機が訪れた。
5坪しかないお店では在庫は限られ、一人で何もかもは難しくなってきた。
その時、友人の一人が、使っていない30坪の倉庫を改築して使ったら?
と申し出てくれ、ある人からは出資するから株式会社にしたらと言われた。
絶対お金が戻ってくるとは思えないのに何十人もの人が少しずつのお金で株主になってくれた。
そして今。

 多くの人たちの支えの根幹は「本」とくにこれから大人になって社会を担っていくはずの子どもたちが読む「子ども本」を大事にしたいという考えだったと思う。
それは、「こどもの広場」という本屋を中心にして、それぞれが自分の傍らにいる子どもたちに「本を大切にして読む」という文化を手渡していこうという気持ちの現れであった。
地域の文庫、読み聞かせをする人、幼稚園や保育園の園での貸し出し、みんな一生懸命だった。
そこには声に出して絵本を読んでくれる、本の相談に乗ってくれる、本のことをうれしそうに話してくれる人がいた。
そして、みな自分の好きな本を大切にしていた。

 今30年目の危機が訪れている。
本屋は朝から静かに始まり、静かに終わる。
座り込んで本棚の隅で本を読みふけっている高校生も、子ども連れで賑やかに本を選んでいる人も、学校から帰って遊びにくる小学生も数えるほどしかいない。
本が売れない。
「本は借りるもの、家に置くと邪魔になるから」
「ネットで買うと早いし、電子書籍もべんりよね。」
そんな時代になった。
ネット買いも電子書籍も都会の話と思っていたらとんでもない!
このインターネットは世界中目こぼしはないのだ。

先日朝日新聞にニューヨーク支局からの記事が載っていた。
そこには「こどもの広場」の置かれているのと同じ現状と閉店を余儀なくされようとしている街の本屋をみんなで支え合うことにした話が載っていた。

 世界中を目に見えないネットワークで結び合わせることができるようになった,情報化時代。
そのかわり個人が大切に「自分の物」として愛おしむ一冊の書籍を失わせようとしている。
50年先どんな世界になっているのか、もう想像もつかない。


横山眞佐子












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