2012.05.

「可愛がる」


 仕事が終わって、帰宅はたいてい8時過ぎてしまう。
下関のそんな時間は既に人通りもないのだが、たまに歩いている人はみんな犬の紐を握っている。
あの人もこの人も。犬たちは嬉しそうに、あっちを嗅いだり、こっちに引っ張ったり。
紐の先の人間をいいように使っている。
のどかな夜のお散歩光景。

 夕方、3歳くらいの男の子が道にしゃがみ込んで
「おかーさん、足痛い〜。抱っこ〜」
ちょっと先を歩いていたお母さん、振り返ったけどそのままスタスタ。
あれ?よく見ると母さんは既に腕の中に茶色の犬を抱っこしている。
いやいや、犬を下ろして歩かせて、自分の子どもをちょっと抱っこしてはどうかな?

 数年前幼稚園で園長しているとき、他の園の先生とも「そう、そう!」と盛り上がり、ストンと考え込んでしまったこと。

 「ごっこ遊び」が大切な幼児の時代、園には可愛い子どもサイズのテーブルやお鍋などキッチンセットが整えられているところが多い。
もちろんお母さんごっこのため。
ある日女の子たちが、エプロンなど身につけお母さんごっこを始めると、男の子たちが口々に「ワン、ワン」とか「ニャン、ニャン」とかいいながら四つん這いになって小さなお母さんたちに甘えようとしている。
あれ?お父さんや子どもになる人はいないの?

 お母さんごっこの一番人気はペット。お父さんや子どもになった日には、
「早くしなさい!」「早く帰ってきてくださいよ!」
と叱られてばかり。

 児童精神科医の佐々木正美さんの著書『かわいがり子育て』(大和書房)には、幼い子どもが望んでいることは、なにをどれだけやってあげても、大丈夫。
過保護でいいのだ、と書かれている。
おんぶ、だっこ、その度にしたからって歩かない子どもにはならない。
むしろ、十分に可愛がられた子どもは本当に安心して精神的に自立していくと。

 また、『沈黙の春』(新潮社)を書いたレーチェル・カーソンは自分の小さな甥を赤ん坊の頃から嵐の日の海岸や穏やかな日差しの林の中につれだし自然の豊かさを共に味わいます。『センス・オブ・ワンダー』(新潮社)

 「散歩」も「抱っこ」も「よしよしされること」も犬だけではなく、人間の子どもこそ望んでいるのだけど・・・

かわいがり子育て
佐々木正美
大和書房
1,260円
沈黙の春
レイチェル・カーソン
新潮社
2,520円
センス・オブ・ワンダー
レイチェル・カーソン
新潮社
1,470円



横山眞佐子











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