2012.11.

「植樹」


 お昼過ぎ、我が家の側の楠から賑やかな小鳥の声がする。
あまりの騒々しさに外に出て観察してみると、ムクドリがジェージェーと鳴きながら鈴なりになって食事の最中。
どこからともなく数羽ずつの群がどんどん増える。
普段、この木に二羽の野鳩が住んでいて、妙に野太い声で、デデッポーデデッポーと鳴いているのだが、みると向かいのベランダの柵に避難している。
多勢に無勢、というわけだろうか。ところが、そこに一羽のカラス。
枝に飛びのり、一声カアー!とたんに一斉にムクドリたちは飛び立った。
「どくんだ!コラー!」なんてガラの悪いことを言ったんじゃないだろうか。
しばらくするとカラスも威嚇するのに飽きたのかどこかに行ってしまい、再び賑やかな食堂に。
ついこの前まで緑色だった楠の実が今は黒紫に熟れてきっと美味しいにちがいない。
食べてみたけど、楠の木の強烈な香りがするだけで、人間には美味しくはなかったけど。

 その木の脇に玄関前の庭があるのだけど、気がつくと楠の木寄りの地面から、植えてもいない植物があれこれ生えている。
楠の若木はもう60センチにも育っている。よく点検してみると、ムラサキシキブ、ネズミモチ、ツルウメモドキ、エビズル、アオキ、ノイバラ・・・みんな植えた覚えのないものばかり。
鳥たちは、あちらで食事、こちらでうんちにまぜた木の実で植樹している。
おしゃべりしながら、自然界にとって大切なことをしているのだ。
命の繋がりの中で生きている。

 今年6月亡くなった、水俣病の診療と解明に生涯を捧げた原田正純さんのことを思い出す。
人が自分の場所で生きて、仕事し食事をして子供を愛おしみ生涯を全うする。
地球に住む生き物の一員として、海を汚さず、自然を守り、手を添えて生きていきたい。
でも、水俣では、海に垂れ流された水銀が海や魚を汚染し、食べた人が中毒になり、まだ生まれていない子どもまでが胎児性の水俣病になり苦しまれることになった。
水銀を流すことと、お金を儲けること以外にしなかった人間と食べて、歌って、森を育てる小鳥と比較するのは余りに情けないことだろうか。
春がきて沈黙のままの福島の原発事故周辺にも小鳥たちがいつか森を作ってくれるだろうか。



横山眞佐子











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