2013.04.

「お店」

 朝っぱらから店頭にお客さんが群がって、我先に魚の入っている冷蔵ケースを覗き込んだり、ホーレンそうや新玉ねぎを抱えている小さなお店が近所にあります。
親子二代でやっている「新田商店」。
おじちゃん(といっても、私とはきっと数歳しか違わないと思うけど)と息子と可愛いお嫁さんの三人でテキパキ切り盛りされています。
ケースの中の魚はすべて天然物。
大体関門海峡、響灘の近海でとれた、跳ねるような魚たち。
朝5時にはお店が開いています。
魚の仕入れからさばくのはおじちゃん担当。
地物野菜や生産者の分かる果物などの仕入れは息子さんの役目。
これは大体8時過ぎに並び始めます。
だから常連さんは9時頃には目当てのものを見つけに押し寄せるのです。
ちょっと殺気立っていたりします。

 子どものころ、母は朝の8時9時には唐戸市場に買い物に行っていました。
市場には魚、野菜、乾物、いなり寿司なんかも売っていて、本当にすべてが揃う場所でした。
そのお店は一軒一軒個人商店だったのです。

 いまではそんな市場機能はスーパーや、コンビニに取って代わられています。
でも形は同じようですが、中身はまるっきり違っています。
安くて、手軽で冷凍物なんか沢山種類がありますが、よくみると旬のはずのタケノコが中国製だったりします。
車で行って大量に買って帰れる大型店は便利かもしれないけど、私の住んでいる町で一緒に暮らしてきた人のお店屋さんはそのおかげで閉店に追い込まれたってことがじわっとひろがっているような気がしませんか?
この町で生きていくということは、隣の人と一緒により上質な暮らしを目指すということの一端を担っているということ。
支えたり支えられたりしてこその未来なのでは?

 「新田商店」では、どの魚も野菜も一番輝く場所に並べられています。
たえず品物の位置を変えたり追加したり、魚をさばいたり、開いて塩をしたり。
そこには自分のところにある品物に対する誇りと、愛おしさが溢れています。
だからどれを見ても美味しそう、とおもえるのです。
間違いない品物を生産者や漁師さんから仕入れてお客さんに提供するのはお店の人の仕事。
それを買い支えるのはその町の人たちの仕事。
持ちつ持たれつしながら、美味しいものを食べられ、健康に過ごすこと。
ささやかだけど大切にしたいことです。

 ネットのお取り寄せより新田商店のおじちゃんが一匹一匹手間暇かけて作った干物や今日の白菜で漬けた漬物のほうがどれだけ美味しいか。
だから私は今日もおじちゃんが真っ赤になった手で一日中作ってくれているちょっと分厚いヒラメの刺身で、母と一緒に美味しいお酒をチョコ一杯頂くのです。

 こどもの広場もそんなお店でありたいものです。



横山眞佐子











一つ前のページに戻る TOPに戻る