2013.05.

「喧嘩」

 5月の連休明けから「選書会」が始まりました。
昨年から今日までに出版された新しい本の中から、学校の図書室に入ったらいいなと思える本を1000冊位選び、更にその中から各学校に合わせて運んで行きます。
けっこう重労働ですし、毎日のことになると女子ばかりの「こどもの広場」スタッフはヘナチョコになったりします。
けれども、毎日伺う学校で出会う子どもとその子どもたちに暖かな眼差しを注いでおられる先生たちに出会うたびに「この場にいられて良かった」と思います。

 先日もブックトークの時間が始まり、私が1・2・3年生の前に立っても3人の3年の男子が大声をあげて喧嘩しています。
どうも1対2のようです。
口喧嘩とはいえ、相当興奮しています。
一人がドアを乱暴に開けて教室から出て行きました。
二人組も後に続きます。
廊下に出てやりあっています。
ここで、感心したのは、三人とも手を出さないで、言葉での応酬をしていること、担任の先生は落ち着いてどちらの子どもの味方も非難もしてないこと。
さらに、一緒にいた1年生と2年生がだれも騒がずこの騒動を見ていたこと。
これは、あまりのことに呆然としていたのかもしれませんが(笑い)。

 しばらくして三人は戻り、一応話しを聞く体制にはなりましたが、このクラスの興奮した気分をちょっとばかり引きずって、ブックトークはスタートしました。
でも、数分もすると、お話の世界に引き込まれ、トゲトゲしい気持ちが変化していきました。

 この状況は絵本の『まつげの海のひこうせん』そのものです。
友達と喧嘩して負けた僕は、悔しくて情けなくてどうにもやりきれなくて運動場の真ん中にひっくりかえっています。
憎いアイツ。許せない!
先生は諦めて、そのまま寝ていなさいと授業をしに教室に行ってしまいます。
ひとりぼっちの時間に思う存分想像したことで、僕の気持ちは落ち着いて行きます。
喧嘩でササくれた気持ちはそう簡単には平らにはなりません。
少年の誇りの回復には時間と、別の空間と、想像力が必要です。

 小学校での喧嘩少年も廊下に出て行ったこと、先生が無理に仲直りなんかさせず時間をおいてみておられたこと、そして、別の物語の世界に行けたこと、それらがまさしく「まつげの・・」の本の中の少年の気持ちそのまま。
絵本に描かれていることが再現されたように見えました。

 いや、ほんとうは、逆で、現実が絵本の中に描かれていたのですね。
素晴らしい体験をした一日でした。


『まつげの海のひこうせん』
山下明生 作 / 杉浦範茂 絵
偕成社 / 1050円



横山眞佐子











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