2013.06.

「なださん」

 なだいなださんが亡くなりました。

 14年以上も前もことですが、下関市にある長府毛利邸の庭に面した素敵なお座敷で魔女の宅急便の著者、角野栄子さんと精神科医で作家のなだいなださんの対談を企画したことがありました。
山口県の県外広報誌の制作編集をしていた頃です。
お二人の対談のタイトルは「こころと『物語』」。
精神科医として久里浜病院に勤務している頃、それまでは精神病の人たちや、アルコール依存症の人たちは、格子のはまった病棟に入院していたけれど、そんな人たちを、外に連れ出し山道なんかをぶらぶら歩きながら、話しをしていくと、患者と医者という関係が破れて、患者の方から自分の物語を作り始める、というお話しが大変印象的でした。
精神科の患者さんから「先生変わってますね?」と笑われるとうれしそうでした。

 「なだいなだ」nada y nada、スペイン語で「なにもなくてなにもない」という意味のペンネームも一度その意味を聞くと忘れられません。
私が最初に出会ったのは『TN君の伝記』でした。
こどもの本の専門出版社の福音館書店が出し始めた「日曜日文庫」という高学年から大人向きの読み物シリーズの一冊でした。
歴史や伝記にはちょっと弱かった私が思わず読みふけってしまった、TNという人物の伝記です。
イニシャルで書かれた主人公が一体誰なのか?
それを考えるのもまた楽しい読み応えのある作品です。
精神科医、芥川賞候補作家としてしか、知らなかったその頃です。
本の面白さに惹かれて、お手紙を書き、「こどもの広場」のシンポジュームや講演会にもきてもらいました。

 2013年6月6日になださんはご自分のホームページに月末フランスに行き講演する予定だったけど体調が厳しいと書いておられ、テキストの中のコモンセンス=常識の訳し方がピッタリしないと嘆かれています。
その同じ日の内に亡くなられるなどご本人は感じておられたのでしょうか。
なださんという人の存在は今やnadaでもその思想や意思はいまも在るのではないでしょうか。
さようなら、なだいなださん。


『TN君の伝記』
なだいなだ 作 / 福音館書店 / 840円



横山眞佐子











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