2015.08.

「鶴見俊輔さん」

 一冊の本を頂きました。
藍染の布装丁の凛とした美しい本です。
「女と刀」中村きい子 作 思想の科学社。
送ってくださったのは鶴見俊輔さん。

 鶴見さんにお目にかかったのは、ほんの2回。
1度目は小さな子どもの本屋を始めて間もない頃の80年代、子どもを取り巻く社会の様々なところで悩んだり行動したりしている人たちと一緒に「こどもの広場シンポジウム」を開催し、その講師として下関に来ていただいた時。
2度目は、京都で詩人の工藤直子さんと飲み、食べ、笑い、たくさんのおしゃべりをした時。

 その後この本が送られてきました。

 70歳に達した女性がそれまでの生涯を振り返り、自分のつれあいを刀ひとふりの重さもない男と判断して離婚、その後の日々を一人で生きる、女の覚悟と誇りが描かれています。
薩摩の外域士族の娘、封建制度の長い歴史を背負った女の生き方を不思議な鹿児島弁で書いた中村きい子さんを初めて知りました。
私にこの本をくださった鶴見さんは、離婚し子どもを育てながら女一人で無我夢中で子どもの本の専門店を作り、300人もの熱い思いの人たちが参加しているシンポジウムを開いてしまっている私に「キヲは男にかわりたいとおもっているわけではなく、男のように大言壮語したり大声で他人に号令したいと望んでいるわけではない」(あとがきより)と私自身のあり方を問われたのかもしれません。
しなやかに、豊かな平坦ではない民主主義の中に歩み入ることもできるのですね。と伝えられた気持ちがします。

 鶴見さんはあくまで個人の揺らぐ心情に共感される人です。
「雑菌のない観念」をちょっと危ないと思い、「思想の底には子どもの時からの反射」があると親としての有り様を語り、「ウフフの哲学」といい、右とか左とか切断せず力ではなく柔軟さで新しいものを作っていくということを楽しそうに語られました。(「戦後とは何か」青弓社)

 鶴見さんの訃報に、ポッカリ穴があいたような気持ちになっているのです。
私の中にあった大事な場所がスースーしています。
涙が出ます。
たった2回で、こんな風に生きたいと思わせていただいた鶴見さん、さようなら。




横山眞佐子











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