2016.03.

「泣く」

 「赤ちゃんの泣き声を聞くと、とてもイライラして落ち着かず、はらが立ってくる。そういう自分が嫌で、情けない」という相談にあなたならどう答えるでしょうか?精神科医の宮地尚子さんがされた質問です。

 子どもの笑い声は大抵の人を幸せにしてくれますが、泣き声は普通不安を募らせることになりますね。でも、先日テレビでみた赤ちゃんの泣き声を聞いた時、泣けるってなんていいんだろうと思いました。

 5年前の東日本大震災の起きた3月11日。仙台市の助産婦 伊藤萌子さんは電気も水道もないなか赤ちゃんを取り上げます。いわき市の産婦人科医 村岡栄一さんは震災と原発事故のなか小名浜にとどまりながら3月末までに30人の赤ちゃんを取り上げます。生と死が紙一重の状況のなかで誕生した命が「産まれたよ〜。誰かいる〜?」と声をあげた時、お母さんお父さんはもちろん周りの人皆、この子の泣き声を未来への喜びの声と聞いたことでしょう。その時 産まれた子どもたちがもう5歳。東日本のそれぞれの場所は幸せに暮らせるようになっているのでしょうか?残念ながらいいえとしか言えません。様々な体験と想像に絶する悲しみのなか、被災地の方たちは大声で泣けたでしょうか?その泣き声を聞いてあげられたでしょうか?

 辛いことが起きた時、泣けること、泣いてもいいと言ってくれる人がいること。散々泣いて心のつかえを涙で押し出した後チョッピリ前に進める。それが人間のすてきなところ。

 友人がお母さんを亡くした時「すぐには泣けなかった。全然涙が出なかった。でも息子が『もう泣いてもいいよ。』と言ってくれて初めて自分が悲しみの底に沈んでいたんだと気がついて泣いた。」と話してくれました。そして、看病した自分も家族も、お母さんも丸ごと良しと受け入れることができたのではないでしょうか。友人の笑い声に少しだけ明るさがプラスされたみたい。

さて赤ちゃんの泣き声です。イライラ、ドキドキ、ハラハラして、ついになんでそんなに泣くの!と腹立たしくなり、どうしようもない自分を責める。宮地さんの本によると実は泣き声には危険にさらされたり、助けを求めていると想像させ、警戒や気遣いをそちらに向けさせるようになっているそうです。  〜ははがうまれる〜 (福音館書店)

 赤ちゃんだけでなく、誰かの泣き声に気遣いし、泣くことで慰められることも必要なのですね。




横山眞佐子











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