2016.05.

「朝の風景」

 朝の弱い私だが、この季節は仕方なく早く起き出かける事が多い。

 ふと気がつくと 8 時過ぎの町を走っている車の何台かに一台は「〇〇の里」とか「ディサービス〇〇」 と書かれている。道ばたに止まった一台から小走りに降りてきた若者が手早く車いすを下し、向かいの 家の玄関からお年寄りの手を取りながら出てきた。笑いながら何か話しかけている。お年寄りに笑顔が 広がり二人ですっきり晴れた朝の青空を見上げる。ゆっくりゆっくり車イスに座ってもらうと急にてき ぱきとバンのドアを閉め、また小走りで運転席に。高齢者が増え、介護を必要としている人が増える。 身体の弱ったお年寄りのスピードに合わせた仕草と仕事に取り組む時の若者スピード。いいなあ。あち こちでこんな様子が見られる朝の風景。

 数人のお母さんと子どもが道路はしで待っている。幼稚園のお迎えバス。子どもたちは片方の手をお 母さんにつながれながらも、石ころをけったり、隣の子としゃべったり。お母さん同士はおしゃべりし ながら笑い合う。何の話で盛り上がっているのかなあ?バスが来た。子どもたちが乗り込むとバイバイ と手を振ったお母さんたちはもう一度ひとしきりおしゃべりをし、残されていた朝の仕事に散って行く。 忙しいなかのホッとする時間。こんな朝の風景。

 小学校近くの横断歩道に黄色いたすきと旗を持った方たちが、子どもたちが安全に渡れるように目を 配っておられる。「おはよう」と声をかけられて「おはようございます」と笑顔で返す女の子。下を向い たまま知らん顔で通り過ぎる男の子。友達とのおしゃべりに夢中でよく見ずに横断歩道を渡ろうとする 子どもたち。でもおじちゃんはどの子にも丁寧に「おはよう」。気がついた子どもたちが渡りきった向こ うから、「いってきまーす」と大声で挨拶している。走って行く子どもを見送るおじちゃんの目が優しい 朝の風景。

 人の関係は何気ない日常の中で作られて行く。大人が子どもにした事、しなかった事、かけた言葉、 眼差し、大人の仕草、振る舞い。そんな事が自然に子どもたちの心を育て人間への信頼を育てるような 気がする。自分自身、心して振る舞いたい。




横山眞佐子











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