2016.12.

「思春期」

 校区内にある本屋さんで一人で本を買い始めたのは中学生になってから。いろんなことを考え るようになり、まだちょっぴりしか世界の事を知らないくせに、大人の世界がヘン!と思う年齢 でした。親に勧められる本は金輪際読むもんか!とカッコつけながら後でこっそり読んでは知ら んぷりをする。親が好きな作家は色眼鏡で見る。そのくせ友達とは「あの本読んだ?」「貸して 貸して!」などと気持ちを共有する。難しい時代です。それを知ってか知らずか、ある日父から 「本だけはツケで買っていい」と言われました。「わーい!なんでもいいの?」「なんでもいいが、 一月に二冊」。

 本屋の棚を隅から隅まで見て回ります。あれもこれもと、二冊の選択に夢中でした。始めは「な んでも OK」の言葉に有頂天になっていましたが、ふと私が何を買ったのか父に知られるのだろ うか?と疑問が。当たり前ですよね。その瞬間私の購買基準にもう一つ大事なことが加わりまし た。「フーム、こんな本を読んでいるのか!」と思わせたい。ワンランク上の本。見栄の気持ち。 子どもって面白いですね。見栄はって背伸びしてみる。そのうちそこに楽々届くようになる。チ ンプンカンプンわからなくても自分で選んだ本ですからいつも本箱にあって、いつか読めるよう になるからな!って気になる。親とは一線を画す!というのが私の思春期でした。こどもの広場 に来られたお客さんから、思わぬ話を聞きました。まだ5坪の小さな本屋だった頃。今から30 年も前です。中学生だった彼女は家に帰る前にこどもの広場に立ち寄り、なんとなしの時間を過 ごしていたとのこと。そこでいつも出会う高校生に沢山の本の話や世界の事を教えて貰ったとい うのです。懐かしそうに。多分親は知らない子どもだけの時間。当時の高校生は大学教授に。彼 女は思春期の子どもを持つお母さんに。多くの本を読む事は、寂しさも温かさも知る事です。思 春期真っ只中の子どもを持つ別のお母さんが「図書券お預けしますね。子どもが来たら欲しい本 買わせてください」と言われました。一人で歩き出そうとする子どもの一番の応援団はその寂し さを抱えた親かもしれません。だから来年もあなただけの一冊を見つけて下さい。




横山眞佐子











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