2019.5.

「体験」

自分は病弱だ!などとみんなの同情を引くように言ってきたけれど、この 1 週間はほんとうにそうな ってしまった。 「喘息」。お持ちの方も多いだろうし、いつもきちんと自己管理されている人もおられ るだろう。しかし私はそのように口では言いながら、実際は何といった節制もせずたかをくくって来た。 それが!横になれば胸が破れそうな咳が出る。息が苦しい。水も飲めない。夜中にこんな大きな咳をし ゼーゼー言われては、家人がいたら眠れないだろうなと思ってふと気がついた。父も酷い喘息だった。 今から 70 年も昔では今より大変。記憶の中の父はいつも暗い病室で咳き込み、肩で息をし、何かわから ないガラスの器械のポンプを押して吸い込んでいた。きっと辛かっただろう。でも子どもだった私には 背中のひとつも撫でてあげた記憶がない。ただ目を見開いてその窮状を見ていただけ。しかし今ようや く体の辛さだけでは無い、気持ちの不安や自分の存在の不確かさを知った。体験しないと本当にはわか らない。

 子育てだって同じ。お母さんお父さん生まれて来た赤ちゃん、みんな違う。なにもかもこの一瞬が初 体験。二人目だからって安心出来ない、。体格も性質もみんな違う。手探りで教えられながら、失敗し辛くなりでも一番良さそうな方法を見つける。体験しなきゃわからない。

 玄関で一人で靴を履こうとしている一歳半。右と左を間違えた。お母さんが反対だよともう一度脱が せて目の前に並べる。また同じ間違い。お母さんもう一度。辛抱強いなあ?二人とも、と見ていたら、3回目にして迷いもなく正しく履き、そのまま駆け出した。やった!って感じかな。 体験した前と後、子どもの中は変わっている。「自分でやってみた!できる!」自分で体験するというこ とは時間がかかるけどとても大事。でも・・いつでもそんなことはできない。

 私と同じくらいの年齢の方達に本を読ませていただいた。「100年たったら」(石井睦美作 あべ弘士絵 アリス館)ずっと昔、草原に一人っきりでライオンが住んでいた。仲間だけではなくほかの動物もいな い。そこに一羽の年老いた小鳥がやってくる。本当なら食べたいほど空腹のライオンはそれよりも小鳥 と一緒にいることを望む。しかし二匹には命の終わりがちかい。

 こんな絵本。途中涙ぐむ方、それを見て私も。体験したことがなくても、人は想像することができる。 あの頃は病気の苦しみや生きることの辛さに想像が及ばなかった。ごめん。

 PS. 7 月 12 日から下関市立美術館でこの原画が展示されます。見に来てください。




横山眞佐子











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