2012.02.

「つまりはしあわせ?」


 バレンタインデーの翌日から、県立大学での3日間の「文芸創作論」という集中講義が始まった。
甘い気分も吹っ飛ぶようなハードスケジュール。
大学では、絵やデザインを学んでいるということで、文章で創作をしたことは皆無の学生がほとんどだった。
テーマは「闇」。
1日目は、創作の基礎論を基に自身の創作メモを完成させ、2日目は景清洞の探検コースで、真っ暗闇を体感。
午後から取材のまとめと創作。
翌日朝10時に約15枚の作品提出。
そして、グループで作品の読みあわせ・合評・推薦作の決定を経て、最終的にそのグループごとの推薦作を受講者全員で検討する。
受講生は約50人。
私もこの間に50作品全てを読んで、最後に講評。
今年は学生達と私が選んだ優秀作品は一致していた。
ここまで、息つく暇もない。
連日授業時間終了後も夜19時過ぎまで教室の明かりは灯っていた。

 <初心者のための創作心得>
(1) 安易に「ぼく」「私」で語らない。冗長になる恐れあり
(2) きらきら宝石のようなことばをちりばめ過ぎると輝きが目立たない
(3) 書き出しの10行は書いた後で疑え
(4) 小さな川の流れを最後で大河に押し出さない
(5) 書いた文を後ろから言い訳しない
(6) 読者が見たい聴きたいものを説明しない。見せなさい・聴かせなさい
(7) 写し出すカメラをどこに据えているのか、岩の上に置きっぱなしにしていないか、意識しなさい
(8) そ病(そして、それで、その時、そこで・・・)は、だらだら感を作るので要注意
(9) 声に出してみる。書きつけ言葉は、紙から立ち上がろうとしているか?
(10) 作者の都合でストーリーを動かさない。登場人物や描いた世界の必然でのみストーリーは動いていく

 まぁなんとも偉そうな10カ条だが、これは、私が創作を続ける中での実感だ。
 受講生はこの10カ条と格闘しながら、とにもかくにも書き終えた、そして、最後の感想に
「間違いなく入学以来最もハードな3日間だった。でももうすでにその時間がなつかしいような愛おしいような」
私はハッとした。
そうなのだ。
書いている時にしか味わえないものがある。
辛くても泣きそうでも、それはことばと向き合っている間だけに与えられる濃密な感情。

 この幸福を手放すのは、机に向かうこと以上に、勇気が要る。


 この文章には、10カ条の掟破りがあります。さて、どこでしょう?


村中李衣













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