2012.06.

「いよいよ!」


 わけあって、ひろばの選書会に急きょ参加させてもらいました。

 いつもは、横山真佐子さんのとびきりすてきなブックトークを楽しませてもらっている側なのに、今回はあつかましくも自分がそのブックトークをさせてもらうことになり、ドキドキひやひや。

 ひろばの選書会は、皆さんご存知のとおり、その年各小学校・中学校の図書室に購入する図書を、先生と生徒が同じ3票の投票権をもって、選び出す会だ。
部屋いっぱいにならべられた新刊図書とご対面の前に、心ほぐしのようなブックトークの時間が設けられる。
今回私は、1・2・3年生向けのブックトークと4・5・6年生向けの2回挑戦させてもらったのだが、子どもたちと本との関係の結ばれ方に、改めて胸打たれた。
1冊ずつ、ものがたりの中に入り込んでいく姿が違う。
ほんとうに、違う。

 エジソンが白熱電球を発明するきっかけとなったフィラメントの素材探しの時間について語る間は、子どもたちもなにかを探り当てようとするかのような苦悩の表情。
「ところがある日、ふと机の上に置いてあった扇子を・・・」と語ると「煽いでみた!」と叫ぶ子ども。
その声にみんないっせいにうなずく。
叫んだ少年が送り込んだ発明の風を感じずにはいられない。
「う〜ん、煽ぐっていうのも一つの実験かもしれないけど、エジソンはね、燃やしてみたんだよ」。
風を送り込んできた少年が、ぱっと表情を変えて「竹かぁ!」。
「そうです、竹が一番長く燃え続けたんだって。それでね、同じ竹でも、日本の京都のお寺に生えている竹が一番すぐれていることもわかったんだって」。
すると、聴いていた子どもたちがしゅうっと胸をそらして、なんだか得意そう。
遠い国の発明家の実験に立ち会おうとする時、子どもたちの心の中に、こんなかたちで日本という国への誇りが生まれるんだなぁ。

 戦場カメラマン高橋邦典さんが郷里仙台に立ち戻り3・11からのちの人々のありようを記録した写真集『あの日のこと』を見つめる時には、膝を抱える手をぎゅっと硬くしてひとことの冗談もない。
ようやっと見つけ出したのであろう一体のこけしを抱いて瓦礫となってしまった町を歩く老婦人を映し出した写真にじいっと見入る目・目・目。

 めずらしい少年向け法廷サスペンス『セオの事件簿』で、事件のあらすじを紹介すれば、ごっくんと息を呑み、今にもメモ用紙を開いて事件を整理し解決に乗り出しそうなシャープな表情になる。

 そして、なんとかブックトークが終わり、子どもたちは、本選びのために立ち上がった。

 その時、ひとりの男の子が「さぁ、いよいよだ」とつぶやいた。拙い私の話を聞きながら「いよいよ」の時間をていねいに待っていた。
そして迎える「いよいよ」の時間。
決して立ち入ることのできない子どもの内側の時間が、ここにある、と思った。

 ちなみに、ブックトークを後ろで見学していたおとうさんふたりがささやきあう声も耳に入ってきた。
「このあとは、本を選ぶだけだから」。

 そこのおとうさん方、意外ともったいない見落としがあるんじゃありませんか??

天才たちの発明・
実験のおはなし

米村でんじろう 監修
PHP研究所
1365円
「あの日」のこと
東日本大震災
2011・3・11

高橋邦典 写真/文
ポプラ社
1680円
少年弁護士セオの
事件簿@A

ジョン・グリジャム 作
石崎洋司 訳
岩崎書店
各1470円


村中李衣













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