2014.09.

「待っててね。待ってるよ!」


 沖縄の読谷村にある小学校で、絵本を読む機会があった。

 2年生全員が集まった教室のドアを開けると、好奇心の顔・顔・顔。

 最初は恐らく先生方の提案だったのだろう、拍手でお迎え・・・のはずだったんだろうけれど、私の踏むステップと子どもたちの身体のリズムが絡み合って、あっという間に手拍子はラップ調へ。
あ〜、なんだか楽しそうだ!

 予感は的中。どんな絵本も、声を出す私と、受けとめる自分たちの間で、いきいきとした場が生まれていく。

 最後に“YO! YES”(SCHOLASTIC BOOKSHELF)を紹介した。

 元気のない様子で目の前を行き過ぎる男の子に、もうひとりが声をかける。

 ふりむく男の子。
さらに声をかけるもう一人の男の子。

 短い声のかけあいとともに、少しずつふたりの距離が縮まっていく。

 英語版だが、日本語に置き換えなくても、そのままで十分に子どもたちに理解できる絵本だ。

 私が読むと、耳のいい子どもたちは、すぐに英語で繰り返す。

「それじゃ、今度はみんなに、この二人の主人公たちになって世界に一つしかない絵本にしてもらおうかな?」と誘いかけた。

 最初に登場したのは男の子ペア。
心配して声をかけた男子よりも、声をかけられた(しょんぼりしていたはずの)男子の方が元気で
「なんでそう何度も声をかけるんだよぉ!」と叫ぶ。
一瞬ひるんだ男の子は、
「なんででもいいじゃないか。あそぼうぜ!」。
「なんで?」
「なんででも!」
「ふ〜ん」
「ふ〜んじゃねぇよ」
聞いているみんな、大笑い。
そうか、二人の心の位置関係がシーソーのように上になったり下になったり・・・そうしてともだちバランスが自然にできてくるんだな。

 次に登場したのは男女ペア。
男の子の方は実に紳士的に女の子に声をかける。
「ねぇ、きみ、どうしたんだい?」
でも、女の子は恥ずかしくて返事ができない。
「ぼくでよかったら、ともだちになろう」
こんなかっこいい申し出にも、女の子はますます体を固くしてうつむくばかり。
男の子はいっしょうけんめい声をかける。
女の子は下を向いてしーん。
さっきまでおなかを抱えて笑っていた同級生たちも、しーん。

 すると、とうとう男の子が決心したように言った。
「きょうがだめなら、いつだったらともだちになれる?」
それでも女の子は答えない。
私は小さな声で
「あしたならどう?」と女の子に聞いてみた。
女の子は首を振った。
はじめての意思表示だ。
男の子は、にっこりして、また言った。
「あしたじゃなくても、いいよ」
すると、女の子の肩が柔らかく動いて
「三日後くらいなら」というつぶやきがもれた。
息をつめて、ふたりの友情の行方を見守っていた子どもたちの間から、わぁ〜っと歓声がもれた。

 いよいよラストページ。
男の子が言った。
「じゃぁ、三日後にまた会おうね!」女の子も顔を上げてしっかりうなずいた。
決して相手を見放さない子ども達の魂に脱帽でした。



村中李衣













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