2015.06.

「やわらかな場所」


 山口大学医学部の付属病院で、新しい絵本ボランティアが始まった。

 山陽小野田の図書館で勉強を続けてきた仲間たちが「小野田読書ボランティアネットワーク」を立ち上げて、少しずつ動き出しているのです。

 入院している子どもたちに向けて、大人が絵本の読み聞かせをするだけでなく、子どもたちが主導権をもって、絵本の世界を読み進めていく。
そのことから、自分にもなにか外の世界に向けてしてあげられることがあるという自信を深めてもらいたい。

 頼りにするのは、パペットたち。
たとえば、子ども自身に絵本を読んでもらう時、「パペットたちに聞かせてあげて」と頼んだり、「パペットをひざにのせてあげてふたりで聞いてくれる?」という風に読みの空間を広げたりするのだ。

 今回私たちが小児病棟での絵本読みの助っ人に選んだのは、子どもとほぼ等身大の男の子と女の子の人形と、小ぶりな黒ネコともしゃもしゃウサギ。

 実際の訪問前、2歳未満のちっちゃい人たちには子ネコやもしゃもしゃウサギの方が受け入れやすいだろうし、逆に小学生くらいになったら、等身大の人形の方が<対等な仲間>として近づきやすいのでは、とパペットたちの使い分けを漠然と考えていた。

 さて、第一回目の訪問。
2歳未満の人たちは、見慣れぬパペットたちに目を見張りじいっと見つめてくるものの、おかあさんに張り付いて、警戒心100パーセント。
「だいじょうぶよ、お人形さんたちだからだいじょうぶ」というおかあさんたちのことばに、ハッとした。

 だいじょうぶじゃない物や施術が次から次に彼らの日常を取り囲んでいるんだなぁ。
無理ない無理ないという共感の態度をパペットたちは示す。
『がたんごとんがたんごとん』だったり、『たべたのだあれ』だったり、『バナナです』だったりをゆるやかにベッドの隅っこに座って聴く。子どもたちはその様子をちらっ、ちらっと横目に見ながら、おかあさんにべったりくっついて絵本を見ている。

 ところが、1週間たった2回目の訪問。
病室のカーテンを開けてパペットたちといっしょにベッドサイドに行くと、両手をいっぱいに伸ばして満面の笑みでパペットたちを迎え入れる。
「やぁ遅かったね、ともだち!」とでもいうように。
そして、パペットに自分の場所を半分譲りながら、いっしょに絵本を楽しむ。

 おかあさんは、子どものそばを離れ、ほんの少しの間ぼぉっと休んでおられる。

 まだ2歳にもならない子どもたちが、1週間前のできごとをこんなに鮮明に覚えていたことも、すっかり打ち解けムードに変わっていることも驚きだった。
そして、改めて考えた。
ベッドの上の時間は、ずうっと続いているんじゃないか。
昨日・今日・明日と区切られることなくひとつなぎで。
そしてひとつなぎの時間の中で、パペットと仲良くなり、待ちわびる心も育っていくのかもしれない。

 決して一括りにできない生命の時間とていねいにつきあっていきたいと思っている。



村中李衣
















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