2015.08.

「どうでもいいけど、どうにかしての巻」


 岡山で暮らし始めてはや1年半が過ぎた。
岡山といってもとっても広いので、岡山市周辺に限定してしゃべりますが、出会う人出会う人、相変わらずぶっきらぼうで、愛想なし。
お店で物を買って「ありがとう」を言うのはお客だけ。
プロなのにこんなのないよねぇ〜と思っていたら、プロなのにこんなのないよねぇ〜事件は、もっと身近に潜んでいた。

 大学には4つの門があるのだけれど、そのうちひとつの門を出入りすると、必ず不審者に間違われる門がある。
一度目の「待ちなさい!」に出くわした時は(あ、着任したてだから、無理ないな。さすが守衛さん! ちゃんと見知らぬ人はチェックしてるんだなぁ)と感心した。
で、名前と所属を明かし、「これからよろしくお願いします」とまで言った。

 なのに、それから間もなくまた「ちょっと待ちなさい!」。
いやいや待たなくていいでしょ、とそのまま歩いていたらすごい勢いで追いかけてきた。
「どこへ行くんですか!」
どこへ行くって、自分の研究室に戻るだけじゃん。
口ごもっていたら「どこへ行くのかと聞いているんです!」もう完全に尋問調。
「それ、言わなきゃいけませんか?」と聞き返したら「名前を言いなさい」。
「むらなかりえです」。
ここで、「あ、失礼、村中先生でしたか」と思い出してくれるだろうと思った私が甘かった。
まじめに手帳に名前を記入し始めた。
こりゃダメだと思って「児童学科の教員です」と言ったら「ちょっと待ってください」。
おお、やっと、命令口調から「ください」に変わったぞと思っている私を待たせて、彼は守衛室に戻り、手帳を見ながら教員名簿をチェックし始めた。
ついに私は守衛さんの顔の真ん前に立ち「この顔に見覚えないんですか? 特徴あるからつかまえたんでしょう、ついこのあいだ!」と叫んだ。
しかし彼は、私の憤りに満ちた声に動じる様子もなく、ふうん、と唸っただけ。

 「私ってそんなに怪しいですか?」と、別の門の守衛さん(この方はいつも紳士的です)にたずねたら「なあに、だいじょうぶだいじょうぶ」と慰められた。

 ね? 岡山流コミュニケーションって、ぜったいどこか、接触部分がおかしいよね?

 こう愚痴をこぼしたら、「いやいや、よっぽどりえさんの雰囲気がおかしいのだ」と、岡山の友人たちは口をそろえて言った。
もうたすけてくれぇ〜〜

 というわけで、最近岡山での私のこころは『おじさんのかさ』の立派な黒い傘みたいになっている。
大好きな人との出会いは、台無しにされるのが怖くて、せっかくのチャンスがきても閉じたまんま。
だれかどこからか、「あ〜めがふったらぴっちゃんちゃん♪」と楽しい声で私のこころを誘い出してくれないかなぁ〜〜

 梅雨明けまでには湿りすぎた傘をぱっと広げて干したいもんだ。



村中李衣















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