2017.4.

「ハッピー帽子がやって来た!」


 山陽小野田市の図書館で長く続いている絵本や児童文学を学ぶ「わいわい講座」。私の地域 での活動を精神的にも実質的にも深く支えてくれている貴重な講座だ。その講座のメンバーで、 大学病院に入院している子どもたちとその家族にものがたりの時間を提供する「読みあいプロ グラムを始めて、2 年が過ぎた。病棟を訪ね、ベッドサイドやプレイルームで絵本を読むだけ でなく、子どもたち自身がお見舞いに来ることのできない家族に絵本を読みあっている楽しい 姿を DVD に記録してみせてあげるというものだ。もちろん、毎回 DVD 撮影ができるわけでもな いし、そういうやや大掛かりな設定での読みあいが難しい場合もあり、一番自然なご家族にと って嬉しいやり方での読みあいを臨機応変に実施している。きっちりマニュアルのない臨機応 変なというのがこれまた難しく、根気もいる。そんな活動をコーディネイトしてくれている若 い司書の M さんには本当に頭が下がる。司書さんの本と人を繋ぐ気持ちが、図書館という建物 の外に広がっていろんな人の心を温めてくれるのが何より素晴らしい。そんな風に仲間に対す る感謝の気持ちで、岡山の本屋さんの前を歩いていたら、店頭に吊り下がっているピンク色の バースデーケーキ型の帽子が目にとまった。とっさにこの帽子をかぶって病棟を訪れる M さん や、「わいわい講座」のメンバーの顔が思い浮かんだ。そして気付いたらもう、店長さんに「こ の帽子ちょうだい!」と訴えてしまっていた。すると、これは岡山のタウン情報誌や広告・PR を手掛ける会社の販売促進用のグッズで、書店とは関わりないのだというお答え。それでも M さんやメンバーのこの帽子をかぶった姿をあきらめられず、教えてもらったその会社の名前だ けを手掛かりに電話して「帽子ちょうだい!」。最初に電話の対応をしてくださった方は、さ ぞいぶかしく思われたはずだが、あれやこれやの事情説明を根気よく聞いてくださり、「後ほ どご連絡します」。そして改めてかかってきた電話では、いきなり「で、いくつほしいんです か?」。びっくり。「え?じゃあじゃあ、M さんのと F さんのと、I さんのと、それからそれか ら・・・」。すると、「わかりました、販売促進期間が終わったら、市内の本屋さんからできる だけ回収します。少しの間待っていてください」とのお返事。夢みたい。
 そしてついに本日届きました。紙袋いっぱいのハッピー帽子!
 カラフルなろうそくがいっぱいついている帽子をかぶってぴょんぴょん飛び跳ね、「よかっ たぁ?思い切って本音で相談してみて。常識はずれなお願いだったのにありがとう!」と叫ぶ と、帽子を届けてくださった H 氏は、笑いながらひとこと。「常識と言われていることが必ず しも正解とは限りませんからね」。
 色の押さえられた病室で、この明るい帽子は、きっと「お楽しみの時間」を飾ってくれるだ ろう。岡山って不愛想で融通が利かない町だとぼやいていた私に、「そんなことありません。 いいかげん偏見の帽子を脱ぎなさい。もう 4 度目の春ですからね」とどこからか声が聴こえて くるようだ。
  (株式会社ビザビさん、ほんとうにありがとう。雑誌『オセラ』、おもしろいです!岡山の人、 読んでみられえ。)


村中李衣















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