2017.10.

「こころのたいそう」


 台風と追いかけっこをしながら、茨城県坂東市へ出かけた。岩井第一小学校と弓馬田小学校 という二つの小学校で、「うふふなお話会」というのを行ったのだ。

 いくつかの学年グループに分けて、40分ずつへんてこりんなお話をした。私が遠足で二人 組になった女の子のためにパンツをあげてしまったエピソードや、意地悪な給食当番に対抗す るためスカートのポケットに給食ぽいぽい袋を作った話などなど。どれも、他人様に自慢でき るどころか、穴がなくても掘って入りたいほどの恥ずかしい話だ。子どもたちは笑い転げなが ら、ほんとうにひとことも聞き漏らさないぞ、というふうにようく聞いていてくれた。話し終 えたところで子どもたちに、「あの子はちょっと苦手だなぁ?」「あいつはホントに頭にくる」 と思う子はいますか?と聞くと、みんなさあっと表情が変わり、下を向いた。「無理ないよね、 だれとでも気が合ってだれとでもなかよし、っていうわけには、いかないよね。でもね、今り えさんの話の中にでてきた子たちみたいに、今はすんごい意地悪な子でも、話が合わないなぁ ?、ちょっと友達になれないなぁ?と思っていても、何年かたったら、びっくりするような面 白い人になっていたり、すてきないいやつになっていたりするから、いやだな、と思う気持ち は、実はおたのしみの種なんだよ」というと、何人もの子がぱっと顔を上げた。その真剣な表 情は忘れられない。そのあとで、子どもたちの手が次々に上がった。りえさんが友だちにパン ツをあげてしまって、おかあさんは怒らなかったんですか?とか、意地悪給食当番は、りえさ んが本を書く人になって自分の名前を意地悪な登場人物に使っていると知って、何か言ってい ましたか?というようなかわいい質問が続いた後、端っこの方にいた小さな女の子がそっと手 を挙げた。「どうしたら、りえさんみたいにおはなしを書ける人になるんですか?」あぁ今こ の瞬間、このちいさな女の子は本気で本を書く人になりたいなと思っているんだとわかった。 それで、「あなたは、だれにも言えないようなくやしいことや、失敗したことがありますか?」 と聞きました。すると、彼女は私から目をそらさずに、ハイと小さく返事しました。会場のみ んなが、えっ?というように、その子を見ました。でも彼女はそんなこと気に留めていない様 子。とっても真剣に私の次の言葉を待っています。「だったら、そのくやしい気持ちや失敗を ごまかさずに、未来の箱の中に大事にしまっておいてください。そして、大人になってからそ の箱のふたを開けてみてください。そこにあるものが、あなたの、お話の種です」そういうと、 他の子が「わあ、種がいっぱい!」と笑いました。「そうです、あなたたちの毎日には、いろ んな種がいっぱいです。恥ずかしいことやしまった、と思うことがなんにもなかったら、たぶ ん本を書く人にはなれないと思いますよ」。すると、質問をした女の子が小さな声で「よしっ」 とつぶやきました。

 それから、絵本『わたしのせいじゃない』を読んた。朗らかな雰囲気が一変し、みんな息を 詰めるようにして絵本の言葉に聞き入っているのがびんびん感じられた。読み終えた時、「わ からない。答えられない」という辛そうな声が聞こえてきた。簡単にわかるよりも、わからな いことをずっと覚えて考え続けてくれる方が大事だと伝えてうふふな時間を終えました。


村中李衣















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