2019.1.

「じいちゃんズのスーパーコミュニケーション」


 またまた、神社境内でのラジオ体操の話で恐縮です。

 新年あけて、久々に、なまった身体でよろよろと神社の石段をあがっていると「おうい、休憩が長すぎるぞぉ。はよあがってこんかぁ」と、てっぺんからじいちゃんたちの檄がとんできた。「は、はあい」と返事もきれぎれで、ようやっと上りつめると「ようし、今日はこれで全員揃うたな」とみんなが私も見てにっかり。私を見て、と言っても、この季節朝6時半はまだ 暗くて、集まった誰の顔もしゃっきりしない。さて、「ラジオ体操第一ぃ?」と軽快な音楽が流れだすと、去年同様、体操そっちのけで、じいちゃんたちのとめどないおしゃべりが始まる。今年最初に聞かせてもらった話題はというと、まずは「昨日丸餅がスーパーマルトクで、3割引きになっちょったがの、でえれえおおけな袋にはいっちょるもんでよぉ、わしとこには、餅はまだ去年のが残っとるけえのぉ」「ふんふん、そりゃあ、買えばよかったんじゃ。買うて冷 凍しときゃあ、なんぼでももつが」「そうじゃ。醤油と砂糖を混ぜてそれにからめりゃぁ、うめえよなぁ」と、餅の話がひとしきり続く。そのうちふいに、「そりゃぁそうと、うちの娘は 水を金出して買いよるで。わしゃその気がしれん」「おう、岡山の水は、旭川の水じゃけえ、うめえんじゃが」「そのとおりじゃ。わしゃ、水やら茶やら買うぐれえなら、ビール買うた方がよっぽどええ」と、水の話に移る。ラジオは、すでに第一の後半に差し掛かるがお構いなし。言い訳に深呼吸の腕を回しながら「餅やら水やら好きなように食うてコロッといけたらええがのぉ」「おう、そういやぁ、市の広報で読んだが、1万円あれば、焼き場で焼いてもらえるらしい」「安いのう、ほんなら、1万だけは机の引き出しに残しとくかぁ」と、餅を焼く話がいつの間にか人間を焼く話に。しかも、神社の境内で!

 女性陣が「平成の御三家」と呼んでいるじいちゃん3人のやりとりは、実に自由自在だ。話題を投げかける。よく聞いて上手に受け止める。受け止めた話題を最後にちょっと広げてみせる。なんてうまい具合に会話のバランスのとり方を心得ている人たちなんだろうと、いつも感心させられる。今まで父を基準に、男性が歳を取ると頑なになり、何人かが寄りあっても自分の過去の自慢話か愚痴がせいぜいで、聴いていて楽しくなるようなコミュニケーションは成り立たないと考えていた。実際、楽しいばあちゃんズにはたくさん出会ってきたが、朗らかなじいちゃんズにお目にかかったことはなかった。不器用で孤独なじいちゃんばかりに会ってきた。どんどん多様化していく福祉サービスは結構なことだが、お年寄りをひとところに集めて個別の対応をするだけでなく、また、一斉に一方向のサービスを提供するのでもなく、それぞれの生活の底に流れる<分かち合いの感情>を掬い上げられることのできる工夫がいるなぁ、特に女性よりも男性に対して、そういう工夫がいるなぁと改めて思った。ようし、岡山にいる間に、せいぜい重い腰を引っ張り上げながら、じいちゃんズのコミュニケーション術をごっそり盗み取ってやるぞと、神社の境内で不謹慎なことを考えた。

 




村中李衣


















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村中李衣(むらなか・りえ)

児童文学作家
ノートルダム清心女子大学教授

絵本や児童文学を創作したり、
いろんなひとの絵本の読みあいも
20年以上続けている。


*** 著書 ***
『チャーシューの月』『行け!シュバットマン』(福音館書店)
『うんこ日記』(BL出版)
『子どもと絵本を読みあう』(ぶどう社)


読みあいについてはこちらをごらんください。













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