2018.11.

「この子が悪いんよ」


 飽きっぽい私だが、まだ走っている。

 月曜日の朝、坂道を駆け上がろうと上を向いたら、坂の頂上あたりに、なにやら黒いかたまりが見え る。動かないかたまり。近づくにつれて、あぁ人間だ、人間っていうか子どもだ、ランドセルが見える、 小学生だな、集団登校途中の小学生だと実態がわかってきた。

 そばまで駆け上っていくと、かたまりがバラバラっとほどけて、その真ん中に倒れている一年生とお ぼしき男の子の姿が現れた。「どうした?」と聞くと、そこにいた 8 人の子どもたち全員が、ひゅっと両 手を後ろに組んで「この子が悪いんよ」「この子が両手をポケットに突っ込んで歩くけえ」「両手をポケ ットに突っ込むけえ」「この子が悪い」と口々に申し述べた。まさしく「申し述べた」と言う表現がぴっ たりの大人びた説明だった。

 確かに彼らの言う通り、ポケットに両手を突っ込んでいたため、躓いた折にそのまま直に膝を打って 転んだのだろう。膝小僧が真っ赤に腫れて血も出ている。「もう誰かを呼んだ?」と聞けば、一斉に首を 振る。「この子の家がわかる?」と聞いても、一斉に首を振る。みんな、ただただぼーっと立っている。 仕方がないので「リーダーはだれ?」と聞くと「はい」と黄色い旗を握っていた子が手を挙げた。「この 子はわたしが後で連れて行くから、まずは学校に着いたらこの子の担任の先生に事情を説明して」と言 って、名前と連絡先を伝えた。

 すると「わかりました」とはっきり返事が返って来てそのまま 8 人の隊列は、ほっとした表情で去って いった。転んでいる子にひと声かけることも、途中でふりかえってみることもなく、何事もなかったよ うにまっすぐ坂道を下りていく姿を見て、なんだか悲しくなった。

 その後、携帯を持っていなかった私は、どこにも連絡のしようがなく、あたりの家に声をかけて回っ た。しかし、早朝で、声掛けに応じてくれる家もなかなかない。4 軒目でようやくおじいさんが出てきて くれた。倒れている子がまったく口をきいてくれないので、家の電話番号も住所もわからない。ともか く先に病院に連れて行くべきかそれとも学校に連れて行くべきかと悩んでいたら、急にむっくりと男の 子が起き上がった。そして自分の足の動きを確かめて、歩き出した。おお、骨は折れていないようだ。 なんにもしゃべってくれないので、ともかく学校に連れて行こうと、おじいさんが出してくれた車に乗 り込んだ。乗り込みながら、この対応はよくなかったな。無理やり子どもを車に乗せている誘拐犯みた いじゃないかと深く反省。ところが、学校について先生に事情をお話しすると、開口一番「あぁ、この 子は支援学級の子ですから」。「だからなんなの?」とつっかかりたくなるような、いかにも事務的な言 い方で、がっくりきた。思うに登校班の子どもたちの自分たちは悪くないというセリフの数々。一番小 さい仲間を思いやる言葉の前に自業自得だと言わんばかりの自分を守る言葉。きっとそれは、何か問題 が起こるたびにまず大人が「なんでこうなったんだ?」と原因究明に走るからだろう。そして、この子 どもたちの言葉の先に学校側の第一声もある。異年齢で遊ぶ機会のない今だからこそ、集団登校でせめ て大きい子が小さい子の面倒を見たりいたわりあったりの経験をさせたいというねらいも、今やただの <集まり歩き>になってしまっている。どうしたもんだか、情けないが答えが見つからない。

 




村中李衣


















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2018.09.「ひとりでもふたりでも」
2018.07.「ぼくらのスターがやってきた!」
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2018.05.「その指の先に」
2018.04.「ねえみなさん」
2018.03.「あそぼうよ」
2018.02.「こころとからだのしなやかな関係」
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2017.11.「こころのたいそう」
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2016.12.「ほどほどの魅力」
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2014.07.「あそびましょ」
2014.06.「羽は折りません」

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村中李衣(むらなか・りえ)

児童文学作家
ノートルダム清心女子大学教授

絵本や児童文学を創作したり、
いろんなひとの絵本の読みあいも
20年以上続けている。


*** 著書 ***
『チャーシューの月』『行け!シュバットマン』(福音館書店)
『うんこ日記』(BL出版)
『子どもと絵本を読みあう』(ぶどう社)


読みあいについてはこちらをごらんください。













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