今月のエッセイ

2022年03月

あさひはのぼる

 卒業まで18日のこの日は参観日だった。6年2組の児童は画用紙で「ドリームマップ」を作成し、電子黒板やタブレットを使って自分の夢や欲しいものを発表し、「自身」をセルフプロデュースする授業を行った。コロナ対策で教室に入れる時間や人数が制限され、我が子の順番に合せての入替制。既に授業は始まっており、一番後ろの席にいた旭は、私に気が付くと軽く手を挙げた。

 発表の仕方は自由で、白衣を着た子やパペット人形に話しかけながら行う子、友だちと漫才をしながら笑いを取る子や、夢は大リーガーだから英語で話す子もいて中々面白い。自分の事を話すなんて何だか恥ずかしいと思う年頃だろうに…照れたり、笑ったり、じっと見つめ聞き入ったり、いつもの友だちだけど何だか違う。一喜一憂する子どもたちの表情からそんなことが伝わってきて、室内はグシャグシャした感情が入り混じっているようだった。

 旭の出番になった。電子黒板には彼のドリームマップが映される。ああ、これか..休日に机で何やら書き込みしていて、根掘り葉掘り質問されたことを思い出した。黒板の前に立つ旭の顔は赤く、やや緊張している。感情を表に出さずに語り、平静を装っている姿や周りの表情から、普段の学校生活や友だちとの関係などついつい想像してしまう。夢はゲームクリエイターで、面白いゲームを作ってみんなを笑顔にし、お金持ちになること。友だちとサイクリングに行ったり、家族とスペインに旅行して完成したサグラダファミリアを見たいそうな。将来は二階建てのモダンハウスに住み柴犬を飼うなど、理想と現実をブレンドしたような夢でしっかりとしたビジョンを持っているなと感心した。「こうなってほしい社会」では、「障害のある人やお年寄り、こども、誰もが自由な社会になってほしい」と語り、「コロナウィルスや差別、戦争がなくなっていて、どの国にも行き来できるようになってほしい」と結んだ。

 翌朝、TVをつけると県内のコロナ感染者数が一月以来高止まりであることや、ロシアがウクライナに侵攻した続報が流れていた。ベランダにはスズメが来て撒いた古米や豆をついばみ、可愛い鳴き声が聞こえてくる。それを眺めながら三人で食卓を囲み、一緒にご飯を食べた。

 あさひはあさひの道を昇り始めた。

山中昇

山中昇プロフィール

1971年7月14日生まれ。 地元下関の高校を卒業後、東京の大学に進学&卒業。雑誌編集の仕事と、劇団員を経験したのち地元に戻り、1998年地元下関に開局したComeon! FMに勤務。制作部長として番組制作に取り組む。
2008年FM開局当初から一緒に番組を担当していたパーソナリティーと結婚。2010年3月長男旭誕生。1児の父となる。

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