エッセイを読む

2024年04月

緑の木

桜、花見!と言っていたのはついこの間。今はもう新緑に覆われて暑くさえなってきました。冬の間、木の中でじっと春が来るのを待っていた生命の力「葉」の果たす役割は大きいのです。枝先の小さな芽は太陽に向かって手を広げます。成長に必要な光合成を行い、酸素を取り入れ、もっと大きく育つ様に頑張ります。生まれたばかりの様に見える小さな葉っぱが、じつは育ての親?

ずーっと昔、実家から離れた遠いところに住んでいた私は、予定より早く陣痛が来て一人で準備をして病院へ。夫は出張中ですぐに駆けつけることができず、痛みがだんだんひどくなり、あと数時間と言われベッドの上から窓の外の山なみを見ながら不安でならなかった。あの空がもう一度立って見られるのか?そんな心配が痛みの間によぎる。でも、親孝行な子どもは分娩室に入ってすぐに産声をあげてくれ、「女の子ですよ」と胸の上に乗せてもらった時の、ちょっと重くて温かい嬉しい感覚が今も忘れられません。

病室に戻り、かたわらの小さなベッドに寝かされた赤ちゃんの顔を見ながら、私は大丈夫か?この後何をしたらいいのか?母親になれるのか?無事に大きくなってくれるのか?と、次々と不安が湧き起こる。そんな気持ちが押し寄せて来た時、この子が私の方に顔を向け、小さいけれどもしっかりした声で「エ〜ン!」と泣き出したのです。その泣き声が私に不思議な安堵感をくれたのでした。看護師さんが来て抱き上げ、ちょっとヨシヨシした後で私の側に寝かせてくれました。

眠っている小さな命の存在は、私の不安をどこかに蹴り飛ばしてくれたみたいでした。この子が「親」としても私を産んでくれたのか?

年月が経ちました。40 年前、庭に植えた細いカツラの木は幹も太く見上げるほどに成長し、冬の間は枝だけだったのに、今では緑の若葉に覆われています。葉も幹もどちらも親の様に子どもの様に、一緒になって今日を生きている。

緑の木々を眺めて深呼吸!一緒にいてね。

横山眞佐子