3月最後の3日間、北海道にある就労支援B型事業所〈Reらぶ〉で読みあいの楽しい時間を過ごしてきました。最後に訪問したのは平成29年の3月でしたから、9年ぶり。利用者さんたちは高次脳機能障がいを抱えておられる方がほとんどです。記憶の保持と穏やかな感情の維持を目標に、開所以来ずっと当事者間で絵本の読みあいが続けられてきた、すてきな場所です。その記録をまとめた『ちょっと不思議な絵本の時間おとなが読みあい語りあう』(かもがわ出版)は、JBBYからの推薦を受け、2017年IBBYのバリアフリー図書にも選ばれています。
今回は、JBBYの希望プロジェクトの一環で、傷つきを抱える人たちを支える手助けになるようにと選定された「あしたの本棚」というブックリストの中から30冊の絵本や読み物を届けるためのものでした。
事業所のドアを開けると、懐かしい顔ぶれが「ようこそ」「ようこそ」と次々に声をかけてくださり、長いブランクがあったとはとても思えない温かい雰囲気に包まれました。でも、応接室でお話を伺うと、Reらぶに対する地域の信頼度が高まり受注量が格段に増えてきたため、忙しさも10年前とは比べものにならないとのこと。それは賃金アップにつながり、目に見える形での利用者さんの「やりがい」となっているので喜ばしいのですが・・・と事務長さんは、そこで一度深い息を吐かれました。「でもそのぶん、かつてのように、利用者さん同士で気持ちを分かち合ったり読みあいの中で心を整えたりという時間は取れなくなってきた、と言うのが現状です」。
こうした背景を知り、久しぶりだという読みあいの時間への期待を受け、責任の重大さを改めて感じました。とはいえ、できることは、いつもどおり。共に物語世界を生き、感じあうことしかできません。
いざ9年前と同じ『リズム』(ミキハウス)を読み始めると、あぁ私の出番ですね・・・というように、すうっと前に出てきて、いっしょに呼吸を合わせ踊ってくださるカッパさん。(まってました)と笑いながら手拍子足拍子を添えてくださる仲間たち。気がつけば、みんなでアフリカのリズム、畑の収穫を喜びあう音とリズムに酔いしれていました。アフリカとは違い3月でも底冷えのする寒さの中、畑ではなく狭い作業所の器械や段ボールの合間を縫って、みんなが労働の喜びを分かち合っている。その満たされた思いが、渦のようになって作業の中を包みました。
『リズム』の読みあいのあと、自由に言葉を交わし合い、持っていった30冊の絵本もクイズ交じりで楽しく進んでいきました。覚えている覚えていないではなく、今この瞬間の幸福感はきっとひとりずつの人生にとって意味があると思えた読みあいの時間でした。
帰り際、カッパさんがわざわざ顔を出してくださいました。「9年もの間よくわたしのこと、そして『リズム』の絵本のこと覚えていてくれましたね」と私が言うと「忘れませんよ。夢の中で覚えてましたから」と、にっこり。
「では、今日のことも?」と重ねて聞くと、「はい、夢の中でずっと覚えています」。
村中李衣
