エッセイを読む

2023年01月

新春そうそう、So-So 体験

なが〜いこと隠し持っていた英語しゃべれませんコンプレックス。しゃべれないことよりも、しゃべれるふりしていたいってことを娘に見破られ「何気取ってんの?」と鼻で笑われた。そして、あっという間に彼女が長年続けているオンライン英会話の「家族優待制度」を使って、入会させられてしまった。

「ななな、なにしてくれるの。恥ずかしいやん。また全然心の準備もしてないのに」「だーいじょうぶだってば。私たちが小さいとき、カナダでちゃんとコミュニケーションとっ

てバリバリ仕事してたやん。それ見て、すごいなぁって尊敬してたんだよ」何を言われても皮肉にしか聞こえない。

「あの時は必死だったし、まだ学生の延長みたいなもんで、単語とかもかなり覚えていたし」「今だって英語の論文読んでるやん」

「それは、しゃべるのとは別よ。第一私もう64歳だし・・・」ついには、年齢を言い訳に持ち出した自分に嫌気がさした。で、仕方なく深夜の”HELLO!“が

始まったのである。オンライン英会話の仕組みは運営会社によっていろいろ違いがあるみたいだが、私が始めたのは、いつでもどの先生とでもレッスン時間も教材も自分で指定できるパターン。事前予約して目指す先生と話すのは割増料金がかかる。ネイティブの先生指名はさらに割増なんだって。ふぅ~ん、私の希望はそういうんじゃなくて、私のへんてこりんなスピーキングを笑わないでいてくれるってことだけなんだよなぁ。すると、すかさず娘が「いったい誰が生徒のできなさを笑うっていうの?教師のくせに、ばかなこと言わないで。」

というわけで、1月2日に始めて10日間で42回、合計11時間半のレッスンに挑戦した。1回20分程度だが、塵も積もればだ。いやいや塵ってことは、ないな。受講生にとってどの先生を選択できるかはレッスンの重要ポイントらしく、先生たちの評価がすさまじくシビア。数字になってバーンと公表されている。その一覧を受講生は指でスクロールし「あ、チャンス!」と素早くボタンを押し、お気に入りの先生をレッスン相手に確保していく。感想などを読んでみると、発音がきれいか、説明の仕方がわかりやすいか、親しみやすいか、間違いをちゃんと修正してくれるか、実に様々な観点から講師は点数評価されていることがわかる。そして、評価が低いと選んでもらえる回数が減り、それは収入にストレートに響くようだ。収入と教授技術が直結するシビアな世界。私なんて、そういう意味でなんとのほほんと生きてきたことか。学生の顔色も窺わず言いたいことを言い、足りないことに気づけば、後で訂正できる。

「お母さんは、先生を選ばず、誰とでもレッスンしたほうがいいね。誰にでも気持ちを伝えられるようになりたいんでしょ。センセイだから、ね?」

はい、おっしゃる通りでございます。条件によって出会うのでなく、出会った人から何をもらい何を手渡すかを経験するレッスンなのですね。ためらわず、初めまして体験を続けていこうかなと、いまのところは思っている。いまのところは、ね。

村中李衣

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村中李衣プロフィール

1958年山口県に生まれる。
大学、大学院で心理学、児童文学を学び
就職先の大学病院で
小児病棟にいる子どもたちと出会う。
以後、絵本を読みあう関係が続く。
現在、ノートルダム清心女子大学教授、児童文学作家。

*著書*
[子どもと絵本を読みあおう](ぶどう社)
[お年寄りと絵本を読みあう](ぶどう社)
[絵本の読みあいからみえてくるもの](ぶどう社)
[こころのほつれ,なお屋さん。](クレヨンハウス)
[おねいちゃん](理論社 :野間児童文芸賞受賞:)
[うんこ日記](BL出版)

ひろば通信、こどもの広場HPで
エッセイ 『りえさんの「あそぼうやー」』連載中

毎月のエッセイは
ひろば通信に掲載されています

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