山口県光市にある中学校の同窓生たちは、卒業して50年経った今も、ゆる~く切れずに繋がっている。数年前からはグループLINEもできて何やかやと楽しい。

 メンバー全員が等しく頻繁に情報を交換し合っているわけではないが、それでも、誰かがなにかを発信すれば、すぐに気の利いたスタンプで返信する人がいたり、しみじみ共感するコメントを返す人がいたり、黙って読んでくれていて“あぁそれぞれのやり方で受けとめてるんだな”と分かったりする。

 昨日広島に住むAさんが「広島駅で見つけました。光駅にもついにです。」とメッセージを送ってきたので、何事かと思ったら、ICOCAのエリア拡大のポスターだった。すると、東京に住むBさんがすぐに「ついに!!やっと!!ですね」とビックリマーク二つ付き。すると地元に住む同窓会世話人のCさんから「JRバスはすでにICOKAが導入されていて、私たちの後輩たちは定期券ではなくICOKAでバスに乗ってるんだよ」と追加情報。そうすると県内在住のDさんが「新幹線降りて徳山駅在来線乗り換え口切符買わずにスムーズに通れるわ」と違う角度から喜びの声。続けてさっきビックリマーク二つ付けてよこしたBさんから「母のパスケースにICOKAと民営バスのバスカードが裏表に入っていて、両方のカードがひとつになるといいなぁと、帰省した時思ったんだ。小銭を心配せずバスに乗れるのは何と楽なことでしょう」と、実感のこもった返信。光市に老いた母のいる娘の思いがこんなところに何げなく表れている。するとすかさず世話役のCさんが地元の力を発揮して「民営バスでも使えるようにならないか聞いてみる!」と宣言し、その直後に「バス会社に電話して聞いてみたよ。まだいつ導入できるかわからないけど決まったらホームページで発表するって」と追加情報。きっとCさんは、この先ずっと、バス会社のホームページに目を光らせてくれるんだろうな。一事が万時この調子だ。ICOCAが故郷の駅の改札口で使えるようになったという、ただそれだけのことが、別々の場所で別々の生きづらさや重さを抱えて生きるもの同士を実はつなぐ糸にもなり得る。それはたぶん、50年間ただの一度も欠かすことなく同級生全員に故郷の情報と近況報告を絶やさず送り続けてきてくれたCさんをはじめとする地元に残ったメンバーのおかげだ。どんなささやかなことも、いや、ささやかであればあるほど、そのささやかさを共有できることで「みんなといっしょに今を生きてる」ことの実感は強くなる。年をとればとるほどその実感が宝物になっていく。

 ところで、まだコロナ感染症なんて言葉も知らなかったころ、Cさんが満を持して上京するというニュースが仲間内に飛び込んできた。なつかしい光市のお土産ばなしを旅行鞄に詰め込んで東京駅に降り立つCさんの姿が目に浮かぶようで本当は私も駆けつけたかった。案の定たくさんの同級生が彼女を東京で出迎え、みんないっしょに都庁の展望室に上ったそうだ。時間をあけずに送られてきた動画を見ると、なんと!Cさん、ためらうことなくそこに設置してある「おもいでピアノ」に座り、元気なメロディーを奏で出した。その曲こそ、われらが母校の校歌だった。草間彌生の黄色に黒のドットが無尽に描かれた個性的なピアノ以上にどこまでも自由な仲間たちに完敗、じゃなかった乾杯!

村中李衣

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村中李衣プロフィール

1958年山口県に生まれる。
大学、大学院で心理学、児童文学を学び
就職先の大学病院で
小児病棟にいる子どもたちと出会う。
以後、絵本を読みあう関係が続く。
現在、ノートルダム清心女子大学教授、児童文学作家。

*著書*
[子どもと絵本を読みあおう](ぶどう社)
[お年寄りと絵本を読みあう](ぶどう社)
[絵本の読みあいからみえてくるもの](ぶどう社)
[こころのほつれ,なお屋さん。](クレヨンハウス)
[おねいちゃん](理論社 :野間児童文芸賞受賞:)
[うんこ日記](BL出版)

ひろば通信、こどもの広場HPで
エッセイ 『りえさんの「あそぼうやー」』連載中

毎月のエッセイは
ひろば通信に掲載されています

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