エッセイを読む

2020年03月

ふぅ~ん、ふんふん

 2月の末から3月初めまでの数日間、朝大学に向かう細い道を歩いていたら、300メートルくらいにわたって、わわわわ、茶色い鳥の糞・糞・糞がびーっしり。ひとつひとつの糞の真ん中には粘っこいオレンジ色のつぶつぶがてんてんてん。初めて見る光景で、昨今の人間の健康を脅かす不穏な状況から、これは鳥からの不吉なメッセージではなかろうかと、ヒッチコックの映画さながらに、びびりまくった。空を見上げれば、ちょうどこの道路の真上に伝染が・・・おっと間違い電線が。これだけの糞が落ちるということは、100や200の鳥の仕業じゃないぞ。きっと何千羽かの鳥が赤い実を食べた後、いっせいにあの電線から飛び立った瞬間が、この場所にあったんだと思うと、胸がざわついた。いろんな人に、「ねえ、最近、岡山で鳥の大量発生の話、聞かない?」と尋ねてみたが、みんなドラッグストアのいつとも知れぬマスク入荷の情報にしか興味がないようで、はぁ?ってそっけない反応しか返ってこない。

 でも、本日たった今、謎が解けました。大学構内ですれ違った生物の先生に尋ねてみたら「あぁ、2月の終わりから3月初めの3日間、飛んできましたねえ、ヒレンジャクが」のお返事。ああ、わかってくれる人がいた!なんですかなんですか、ヒレンジャクって?

 ここから先は、その先生に教えていただいた話ですが、知ったかぶって書きますね。

 尾が緋色で美しい小ぶりなシベリアからの渡り鳥「緋連雀」。ここ岡山あたりに立ち寄る緋連雀好物はヤドリギだそうな。で、連れ立って電線で一休みした後一斉に飛び立つときにヤドリギの実の内側の種を消化できないまま揃って糞を落とすらしい。落とした糞がたまたま樹の上に落ちるとそこにヤドリギが寄生して春から芽を出していくことに成功するんだって。それもね、ただ糞を落とすだけじゃなくて、ヤドリギの種のまわりはむちゃくちゃネバネバしてるから(わかるわかる。アスファルトの上にねっとりへばりついていた)緋連雀のおしりにくっついてはなれない。それが気持ち悪くて緋連雀がお尻を樹にこすりつけ、しゅりしゅりすると、種がうまい具合に樹に寄生することができる。あぁ、ヤドリギは自分で宿を借りるんじゃなくて、こんな形で鳥に食べてもらってうんこの中で粘りを発揮し、それを嫌がってもらうことで目的地に着陸するんだ・・・感動的だ。誰かに好かれようなどと思いもせず、ただひたすらに自分なりの生き方をまさぐる植物たち。どんなに上質な土であっても、そこに落ちたのでは自身で根を生やせないなら、それなりの策を練って(糞を練って)、寄生の根を伸ばす。根性とはこういうことか!

 あれやこれやと、ままならぬことの中でしょげている場合じゃないかもと、緋連雀の糞に教えられました。

 春の息吹を少し違う目線で眺めることのできたできごとです。

  

村中李衣

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村中李衣プロフィール

1958年山口県に生まれる。
大学、大学院で心理学、児童文学を学び
就職先の大学病院で
小児病棟にいる子どもたちと出会う。
以後、絵本を読みあう関係が続く。
現在、ノートルダム清心女子大学教授、児童文学作家。

*著書*
[子どもと絵本を読みあおう](ぶどう社)
[お年寄りと絵本を読みあう](ぶどう社)
[絵本の読みあいからみえてくるもの](ぶどう社)
[こころのほつれ,なお屋さん。](クレヨンハウス)
[おねいちゃん](理論社 :野間児童文芸賞受賞:)
[うんこ日記](BL出版)

ひろば通信、こどもの広場HPで
エッセイ 『りえさんの「あそぼうやー」』連載中

毎月のエッセイは
ひろば通信に掲載されています

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