子どもの本の創作について、初めて本にまとめた。
「もう少し幸せになる子どもの本の創作講座」と題して書き始めたのだが、お師匠さんの村田喜代子先生から、「あ~もうそのタイトル見ただけでダメダメ。しあわせとかってことばを書いただけで、ダメ」と、即却下された。(え~っ、でも、世界じゅうどこを見渡しても不幸せを願うひとはひとりもいないはずなのになぁ、書くことでほんの少し何かが見えて、それで幸せになることってあると思うんだけどなぁ)と、心が萎えた。で、しばらくのあいだ、本作りのことは向こうへ置き、いつものように、村田先生の極上の短編の書き写しを続けた。その中で一番熱が入ったのが「孤独のレッスン」(『人の樹』潮出版所収)だった。
一語たりと無駄がない。口移しのような平易な言葉で「刻まれた文字言葉」であることを読者に忘れさせる。語りの声音まで聞こえてくる。伏線が最後の種明かしのために用いられるのでなく、伏線は次の伏線へと次々に潜り込み、ストーリーの中の時間にうねりを与えていく。おおお、これが出来ないまま安易に「子ども向けファンタジー」だとしている作品がなんと多いことか。さらにもうひとつ、村田作品の中で私たち読者が「へぇ~」と感じ入るのは、ネット情報などから得る「へぇ~」とはまるでわけが違うということ。調べた情報、とっておきの情報をそのままひけらかすように作品の中にはめ込むのでなく、調べたことは自分という穴に入れ、その穴をどこまでも掘り続けて見えたことしかことばにしないというすさまじい覚悟。私たちが村田作品で味わうのは、これまで知らなかったことでなく、私たちの中にひっそりと生まれ始めているものの正体である。
「実物をよく見て表現しましょう」とか「よく調べてから書きましょう」などという指導で終わる創作の手ほどきは、はじめの一歩にも満たないことを思い知らされた。
で、やっぱり、こうした自分の恥ずかしながらの学びの足跡こそをみんなと共有したいと、再び諦めていた本作りに取りかかった。
絵本作家近藤薫美子さんは、画家としての心の言葉を絵本の画像と共に提供してくれた。
NHK短歌投稿作品をご縁に、御作の掲載を許可してくださった岡野はるみさんと、堂本明代さんは、ひとことずつそっと折り畳むような丁寧な眼差しで、子どもの本の世界に近づいてきてくださった。
石川えりこさんは、単なる表紙絵や本文中のカットの担当でなく、そもそも創作への誘いをするつもりなら、この本を作り上げていく過程自体も最善を尽くさなければと編集者も巻き込み、読みやすいよう伝わりやすいよう、甘えがないよう、デザイン・レイアウトも含めて、なんどもなんども練り直す作業を共にしてくれた。
先日、できあがった本を恐る恐る村田先生にお送りした。先生、「あぁ、できたのね」と笑ってくださった。「出すなと言ったのに出したのね」と言われるのを覚悟してたのに。
もう、泣きそう。つまりは、書くとはそういう事なのである。
『「こどもの本」の創作講座:おはなしの家を建てよう』(金子書房)
ぜひ読んでみてくださいね。
村中李衣