司書教諭の資格を目指す学生さんたちとの授業。「読書と豊かな人間性」というあまりに堂々とした科目名にひるみながらも、毎回楽しんでいる。15 回の授業の半分は、ブックコミュニケーションの実践。残り半分は、創作にチャレンジ。受講生の中には、理由あって教室で授業が受けられない人もいて、ハイブリッド授業。機械音痴でしかも教室内を動き回るから、固定カメラに収まり切れず、ハチャメチャ感も漂うが、とても温かい教室になりつつある。
第一回目、授業の始まりに、毎回ナショナルジオグラフィックの、『めったに見られない瞬間!』(二見書房)を一頁だけ紹介して、ちいさなブックコミュニケーションを試みた。
まず、ペアを作り、本の中の写真を一枚だけ見せる。この日見せたのは、インドネシア、ニューギニア島で撮影された木の枝でつくられた巨大な円錐型のドーム。入り口にびっくりするほど大量の果物やらカラフルな花々やらが、積み上げられている。「さてこれって、なんなんだろうね?」と問いかけてみる。ペアで実に様々な予測が飛び交う。「密林に忍び込んだ人が隠れ住んでいた跡じゃない?」「それにしちゃ、食べ物が新しいよ」「ニューギニアで許されぬ恋に陥ったカップルが住んでいるんじゃない?部族同士の争いとかでさ」「それにしちゃ、玄関がオープン過ぎない?」「何かの動物の住処じゃない?」「えー。それって、サイとか?」「なんでサイなん?」などなど、子どもに帰ったような会話を繰り広げながら、みんな写真の奥に隠された真実に真摯なまなざし。すぐに解説しないと、どんどんペアのコミュニケーションは深まっていく。頃合いを見計らって、種明かし。「じつはこれ、チャイロニワシドリ」という熱帯雨林に生息する鳥のオスが、彼女をゲットするために拵える巣です。並べている果物や花は全部彼女の気を引くための貢物です」。すると、教室全体から「ほぉ~っ」とため息が漏れる。「はいじゃあ、今のほぉ~に込められた気持ちなんかを自由に語り合ってください」
そうすると、出てくるわ出てくるわ、実にいろんな感想。「人間の男たちにもこのくらいの本気が欲しい」とか、「この鳥、色彩感覚やディスプレイのセンスがある」とか、そして中には「この鳥、大空を飛びながらも、『あ、あの花びらきれいだな、彼女が喜ぶかな?』とか考えているのかなぁ」「この莫大な量の貢ぎ物、鳥じゃ、気が遠くなるくらい何回も何回も運び込まなきゃならなかったと思う。その何回もを想像すると、わたしなんか全然努力が足りないと思った」と真剣に語ってくれる学生もいた。
そして、今日の学びの最後に毎回書いてもらう、創作新四字熟語。「多角考変」「想像心描」「見広世界」などに交じって「鳥男最高」なんてのもあった。一枚の写真に出会い、その写真には姿の写っていない主人公と出会い、そして自分なりの声をかけてみた!そんな素直すぎる学びの姿勢に、みんなで笑いあった。
秋といっしょに、ブックコミュニケーションも深まっていってほしい。
『はじめよう! ブックコミュニケーション 響あう教室へ』
金子書房
村中李衣