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2022年07月

絵本を創るってそういうこと

新しい自分の絵本について語ってもいいだろうか。

自律神経失調に悩み、身体のあちこちが悲鳴を上げていたころ、まゆみ鍼灸院の横山まゆみさんから「りえさん、はだしがいいよ」とアドバイスをもらった。彼女自身がはだし生活の実践者で、365日ほぼ靴を履かずに過ごしているということで、その気負わない核心を突いた話に納得。さすがに一日中という訳にはいかないが朝夕のジョギングは欠かさずはだしで行い、そのおかげで出会ったり気づいたりひらかれていく感覚をまとめ、絵本にした。

冬のジンジンするような冷たい空気の中、地面がぬるく感じられたり、地下の下水道の流れを知ったり。照り付ける日差しの中、マンホールの鉄板の上、ジュっと焦げるような皮膚、横断歩道の白い部分のひんやり、電線の影の一筋さえ熱を鎮めてくれることなどなど・・・。

さて、絵は、私のはだし生活を「わたしはちいさいころそうだったから、今更特別なことやないんよねぇ〜」と笑いながら、どこまでも自由に表現してくれた石川えりこさん。そして編集は、直感でいろんなことの神髄を見抜いて決断する、あすなろ書房の山浦さん。おかげで気持ちよく仕事が進むわぁと喜んでいただけの単純な私。ところが見本が出来上がってみて初めて、わわわ、こりゃすごい!「おかげで」は、絵描きさんや編集者さんに対してだけ向けられるものではなかったんだ!と衝撃を受けた。絵とブックデザインとのタッグの力おそるべし。この本の場合、帯をつけると、ぴらぴら邪魔だしタイトル文字が生きない・・・困ったなぁと思っていたが、左肩に「足のうらで地球を感じる絵本」とだけ書かれたまんまるシールを貼ることで帯はなしになっている。そして、右下の小さな黒文字で記された作者名は、まるで、生き物だらけの表紙世界に棲みつくありんこのよう。ちゃんと、絵の一部に収まっているではないか。

見返しは、絵のない真っ青な空の青。そして、ページをめくると現れる少女を取り巻く世界は余白がしっかり確保されていて、そのまっさら感が清々しい。見開き左側のページに描かれた少女のこれから先進んでいく世界が、すっきり開かれて見える。扉に再び作者名を入れるとその世界が壊れてしまうことを全員が了解して、特別な一場面に仕上げてもらっている。デザインの威力はそののちのページにも遺憾なく発揮される。めくりによって現れる見開き一場面ずつが、カバー袖の絵と繋がりあって、左右両側にぐうんと広がりを見せる。絵の額縁として表紙の上下の部分が効果をもたらしている絵本にはたびたびおめにかかっていたが、カバー袖の絵が本文の物語性を引き受ける効果など、今まで気づきもしなかった。このカバーは、はずしたくない!奥付にも裏表紙の文字情報もすべて絵の一部に溶け込むように行き届いた配慮がなされている。

絵本表現って、絵と言葉のハーモニーっていうことだけじゃない。原稿だけ書いて編集者さんにお預けしたら、あとはできてのおたのしみ~なんてのんきなつくり方をしてたらダメなんだ。一から勉強し直さなきゃなぁと足の裏だけじゃなく心も鍛え直す決意をした7月でありました。みなさん、ぜひ手に取ってみてくださいな。


『はだしであるく』
あすなろ書房

村中李衣

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村中李衣プロフィール

1958年山口県に生まれる。
大学、大学院で心理学、児童文学を学び
就職先の大学病院で
小児病棟にいる子どもたちと出会う。
以後、絵本を読みあう関係が続く。
現在、ノートルダム清心女子大学教授、児童文学作家。

*著書*
[子どもと絵本を読みあおう](ぶどう社)
[お年寄りと絵本を読みあう](ぶどう社)
[絵本の読みあいからみえてくるもの](ぶどう社)
[こころのほつれ,なお屋さん。](クレヨンハウス)
[おねいちゃん](理論社 :野間児童文芸賞受賞:)
[うんこ日記](BL出版)

ひろば通信、こどもの広場HPで
エッセイ 『りえさんの「あそぼうやー」』連載中

毎月のエッセイは
ひろば通信に掲載されています

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