山陽小野田市のM幼稚園で、図書館からの出前読みあいの会が開かれた。
感染防止対策として少人数2部構成で行われた。一番最初に会場に現れたAくん。集まったのは彼よりも小さい人たちが多かったのだが、それを気にするふうでもなく、まっすぐな目で絵本を見やり、静かに1冊ずつの物語の行方を見守っている。『がたんごとんがたんごとん』(福音館書店)を読んだ時のことだ。周りのちっちゃい子たちは「のせてくださ~い」とホームで列車の到来を待つ乗客たちの呼び声をニコニコ見つめているだけだったが、彼だけはこっくりうなずき、すんなり「いいよ」。乗客を選別することもなく、どの呼び声にも耳を傾け、こっくり。そして「いいよ」。
彼の姿に触れているとだんだん私も、テレを脱ぎ捨て、1日に数本しか走らない草原列車を待つ頼りない旅人のような気持になっていく。Aくんは優しく頼もしい列車。私は何としても今日のうちに目的地にたどり着きたい旅人。そんな関係が「がたんごとんがたんごとん」という音に包まれながら出来上がっていった。
さて、すべての乗客を無事に降ろし、遠く遠くへ去っていく列車の音が小さく小さくなっていき、最後に表紙の絵をみんなに見せて「がたんごとんがたんごとんのおはなしでした」と語ると、Aくんひとりが、ほうっとひとつ、息をついた。そして、囁くような声で「次はだれを乗せるのかなぁ」とつぶやいた。
この絵本は、この世に誕生し、まずは哺乳瓶に世話になり、離乳を経験し、友だちもできた子どもたちが、いったんは、そういうお世話になってきたものたちと別れ、新しい道の世界へまた踏み出していく、そんな成長の歩みを列車の進むレールに託して描いた絵本だが、いったん絵本が閉じられた後に、Aくんが発した「次はだれを乗せるのかなぁ」はまさにそうした次の一歩を予感させるものだった。これまでこの絵本を読みあっている時、子どもたちの間から洩れる「あぁおもしろかった。また読んで」は、何度でも繰り返し同じ道をたどる旅を楽しみたいんだと思ってきた。でも、Aくんはきっちりひとつの旅を終わらせ、次なる旅へ向かおうとしていた。たどり着いた場所をまっさらなゼロ地点にするということが未来を創るまなざしみつながっているんだと気づかされました。
当日はスペシャルゲストとして佐藤真紀子さんも加わってくださり、ほんとうにたっぷりの旅気分を味わった半日でした。
『がたんごとんがたんごとん』
福音館書店
村中李衣