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2021年01月

はだしであるく

年末に、渋谷にある鍼灸院真弓堂の先生が、郷里下関で出張治療をされるというので、是非にとお願いした。その際、私の頭がカチコチで「気」が上半身に上り詰めていることを指摘された。なれないリモート授業やら気苦労の絶えないあれこれで、自律神経が乱れまくっているのは自分でも自覚していた。「りえさん、私一年前からはだしで歩いてるの」と真弓堂の先生は実にすがすがしい声でおっしゃった。その声が、スコーンと体の中を突き抜けていったので、よし、私もやってみようと決心した。とはいうものの、さすがに静寂な空気の漂うミッションスクールの中をはだしでペタペタ歩く勇気はなく、夕方、こっそりキャンパスを抜け出て近くの運動公園外周を靴を脱いで歩くことにした。

なんでも、最初に挑戦する時って、おろおろドキドキだね。靴下を脱いで靴の中に突っ込むだけで、子どもみたいに、はしゃぎたい気分。久しぶりだなぁ~こんなときめき。

さて、いざ、一歩。とたんに、いたっ、いたた。砂利を敷き詰めた公園内の道は、ザリザリと細かい刺激を足の裏に仕掛けてくる。この痛さ、慣れるのに時間がかかるぞ。足をひょこひょこ持ち上げるように、おっかなびっくり先へ進むと、地面が砂地に変わった。すると、さっきほど痛くない。砂のさらりとした感じが、足の裏に滑るように伝わってくる。ところどころに小石があって、そこを踏むと、むぎゅっと食い込むような感覚。ついつい下ばかり見てあるいてしまう。100メートルくらい進んだだろうか。あれっ?ここはかすかにあったかいぞ。見上げれば、かすかにお日様の残りの光が当たっている場所だ。ところがもう数十メートル進むと、今度はひやっとする。あぁそうか、大きな木の陰で日が当たってないのか。もう少し遠くへと目をやると、落ち葉がたまっている箇所が見える。あそこは楽しそう。落ち葉の演舞場目指して小走りに進む。ジャーン、いざ葉っぱたちの中に飛び込んだら、あらら、おもったほどカサコソしないんだ。そうか、ここ、下が土じゃないんだ。下が土なのと土じゃないのじゃこんなに、踏んだ落ち葉の感じが違うんだぁ~~。そうして、公園の外に出ていく。そこは、アスファルトの舗道。なんとなんと、アスファルトって、こんなにあったかいの? アスファルト=硬い冷たい、と思っていたのに、昼間の熱を全部吸い込んだまま熱を放出しないんだ。だから、夏はむおっと熱いのかぁ。

歩きながら気がついた。足の裏って、こんなにおしゃべりだったっけ?歩き始めからず~っとしゃべってるよ。靴はいてるときには、なあんにもしゃべんないのにね。

そのうち、胃がぐるぐるぐるんと足の裏と一緒におしゃべりを始めた。つまり内臓の動きが活発になってきたっていうことだよね。

疲れたからって足つぼマッサージをお店の人に頼むより、自分ではだしになって歩いた方が身体にも心にもずうっと効く気がする。実際、たった一日歩いただけで、肩こりがウソみたいに消えてしまった。おまけに、研究室に戻って足の裏をみたら、くろぐろぐるりんと散歩地図が、足の裏に描かれておりました。ふふふっ。

村中李衣

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村中李衣プロフィール

1958年山口県に生まれる。
大学、大学院で心理学、児童文学を学び
就職先の大学病院で
小児病棟にいる子どもたちと出会う。
以後、絵本を読みあう関係が続く。
現在、ノートルダム清心女子大学教授、児童文学作家。

*著書*
[子どもと絵本を読みあおう](ぶどう社)
[お年寄りと絵本を読みあう](ぶどう社)
[絵本の読みあいからみえてくるもの](ぶどう社)
[こころのほつれ,なお屋さん。](クレヨンハウス)
[おねいちゃん](理論社 :野間児童文芸賞受賞:)
[うんこ日記](BL出版)

ひろば通信、こどもの広場HPで
エッセイ 『りえさんの「あそぼうやー」』連載中

毎月のエッセイは
ひろば通信に掲載されています

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