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2024年02月

続・引っ越しラプソディー

3月になってからの引っ越しは、引っ越し業者の言いなりだぞと脅されて、2月初旬にアパートも研究室も荷物運び出しを決めた。まずは、アパートの片づけから。10年前母が倒れ引っ越しどころではなかった私に代わり岡山の友達がすべてを準備してくれた。食器や寝具は村田喜代子先生が下さった。簡単に処分できるものはなにもない。少しずつ岡山⇔山口の往来時に食器を下着にくるんだり背中に担ぐようにして持ち帰る。ベッドや洋服ダンス、細々した家具は友人が軽トラを借りて運び出してくれた。今週末には冷蔵庫と洗濯機も。気づいたらアパートの中の高さのあるものはなくなった。そして、完全膝下生活が始まった。

仕事が終わってアパートに戻る。荷物を置く、床に。服を脱ぐ、畳んで床に。料理を食べる、床に新聞紙を敷いて。全部を片付けて布団を敷く(最後に処分予定のぺったんこマットを)。姿見も撤去したから、適当に朝支度。面白すぎる。

次に研究室の本の片づけ。車がないから段ボール箱を集めるのが一苦労。毎日毎日、適当な大きさのものを資材倉庫から選び出して研究室に持ち帰る。とにかく壁一面の本を片付けなければ。慣れないと実に様々なサイズのある絵本を詰めるのは技術がいる。あぁでもないこうでもないと入れては出し入れては出し。持ち帰ってからすぐ使う順に A,B,C,補欠と記しをつけるが、すぐに、(絵本にランク付けは失礼よね)と思い直し大慌てで消してみたり・・・何をやってるんだろう。段ボール箱は研究室前に高く積み上げられ120箱にも及んだ。これだけ詰めるとちょっとした段ボール箱評論家に。見た目はいいくせに意外とふんにゃりしているやつ。蓋をかぶせるタイプの箱は詰めるのは好きだけど最後にガムテープで貼りつけるのが段差があって嫌い。野菜の箱は丈夫で大きさもちょうどいいけど、気をつけないと内側が泥だらけでお手々真っ黒。そんなこんなに悪戦苦闘していると「ネットで注文すれば簡単なのに」とサラリ言われた。え~~、そうだったのかぁ。でも、一回運べばそれでおしまいなのに買うのはやっぱり抵抗があるなぁと、結局ぼそぼそ一人片づけを続ける。そして、ようやく大方の片づけを終えたのだが、養護施設に行こうとして、あ、あの本がない。相談に来た学生に絵本で励まそうとして、しまった、箱詰めしちゃった。忘れていた原稿の校正が戻ってきて、どうしよう、確かめようにも本がない。本が傍らにないとは、こんなに頼りないことなんだ。パソコンがあったってデジタルでは補完できないことを思い知らされた。

もう引っ越しはこりごりだけど、でも、こりごりの中には結構、自分の人生の宝物が隠れているんだな。

村中李衣

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村中李衣プロフィール

1958年山口県に生まれる。
大学、大学院で心理学、児童文学を学び
就職先の大学病院で
小児病棟にいる子どもたちと出会う。
以後、絵本を読みあう関係が続く。
現在、ノートルダム清心女子大学教授、児童文学作家。

*著書*
[子どもと絵本を読みあおう](ぶどう社)
[お年寄りと絵本を読みあう](ぶどう社)
[絵本の読みあいからみえてくるもの](ぶどう社)
[こころのほつれ,なお屋さん。](クレヨンハウス)
[おねいちゃん](理論社 :野間児童文芸賞受賞:)
[うんこ日記](BL出版)

ひろば通信、こどもの広場HPで
エッセイ 『りえさんの「あそぼうやー」』連載中

毎月のエッセイは
ひろば通信に掲載されています

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