いつからだろう。旭が「俺、誘われんのよね。」そんなことを口にするようになったのは。友だちと遊ぶ時も自分が誘ってばかりいるのだという。最初は気にしていなかった。ただ時折発していた記憶はある。それは修学旅行で誰と同じ班になるかなどや、あの子は家に誘われたけど自分には声が掛からなかった時、黙っていたらクラスの子に話しかけられなかった日もあったそうな。あれ?俺って何?友だちじゃないの?仲がいいはずだよなぁ。そんな時に呟いていた。別段いじめられている訳ではない。本人は面白くないかもしれないが、その程度のことで偶々かもしれないし、相手を意識しすぎているのかもしれない。ただクラスに仲良しがいれば済むことでもなさそうだ。このモヤモヤはどこから来るんだろう。そんな顔をしていた。
度々発するということは彼なりのシグナルで、私はその都度話を聞いた。最初は「世の中には誘う人と誘われる人がいて、旭は誘う人なんよ。気にしんな。でも偶には誘われたいよね」と話した。次の時は私にも心当たりがあったので「パパもそうやったよ。小学1年の時の担任の福村ハル子先生から「リーダーシップが取れる」と褒められたから、以来誘ってばっかり。損した気分には余りならんかったけど、でも何か浮いてるような気はしたんよね」と伝えた。またある時は「人はみんな違う。誰かから誘われるのを待つより、誰かを誘って自分のコミュニティを作りなさい」と言ったような気がする。彼にはどのように伝わったかは定かではない。不公平が大嫌いで、それが理不尽なことだとも知らずに怒るもうすぐ12歳になる少年の将来に思いを馳せる。彼はいつの日か買ってもらった自転車に乗って、沈む夕陽を見ながら何を思うだろうか。その時私は何ができるだろう。何もできないかもしれないが、困っていたら声を掛け、手を差し伸べて、ひとりぼっちじゃないことを沢山伝えてあげたい。
旭、パパの好きな曲はザ・フォーククルセダーズの「悲しくてやりきれない」だよ。今度教えてあげるね。
山中昇