エッセイを読む

2019年09月

あさひはのぼる

 夏が終わろうとしている8月末、旭が呟いた。「夏休みが後100日あればいいのに…。」傍で聞いた私達は顔を見合わせぞっとしたのだが、その数日後彼は本気でそう思うのである。

 私は旭に今年の夏休みで楽しかった事は何だったか聞いてみた。1読書感想文以外の宿題を早々に仕上げ、亀山林間学校のキャンプに参加して、朝3時まで起きて友達と遊んだこと2大学生のいとこが留学先から一年ぶりに帰国して遊んでもらったこと3カメの紙粘土や習字が上手に出来て、市役所に飾ってもらえたこと4ママと一緒にロールケーキやアイスクリーム作りができたこと5俵山の冷たいプールで何度も何度も往復して泳ぎまくったこと6老いの山公園で穴の開いた虫網でバッタを追いかけまわして捕まえたこと6日和山から花火を眺めたこと7二週間続けて「トンちゃん(ホルモン)鍋」が食べられたこと8パパと初めて馬関まつりに出掛け、夜店のくじをさせてもらったこと9祖父母からお小遣いをもらったこと10天空の城ラピュタのものまねごっこしながらドライブしたこと等々。その中でも特に9が嬉しかったそうだ。

 こんなに楽しかった夏休みなのに、二学期早々の夕べの食卓であんなニュースが流れるなんて…「来年から下関市内の小中学校の夏休みが一週間短縮されます。」信じられない。そんな思いで彼は箸を止め、食い入るようにTV画面を見つめ、ここでは表現できない言葉を宣い、不公平だと怒った。さもありなん。ニュースによると、教諭が子どもと向き合う時間を確保し、丁寧に指導することで教育の質の向上を図るのが主な目的で、短縮により授業時間が30時間増えるとのこと。英語やプログラミングの科目が増え教員の業務時間が増したり、夏場の環境整備(エアコン)が進んだことや子どもだけで夏休みを過ごす家庭が増えていることなど様々な要因を考慮して市が方針を固めたようだ。

 ニュースを聞き終え未だ腹の虫がおさまっていない旭の様子を見かねたママが「でも五時限だけの授業も増えて早く帰れそうよ。」と伝えると、「ならいいけど」とあっさり引き下がった。さすがのママの手綱裁き!あっぱれ奈律子大先生!お見事!なんだけど、何だか大変な時代になったもんだなあ。やになっちゃう。

昇より

山中昇プロフィール

1971年7月14日生まれ。 地元下関の高校を卒業後、東京の大学に進学&卒業。雑誌編集の仕事と、劇団員を経験したのち地元に戻り、1998年地元下関に開局したComeon! FMに勤務。制作部長として番組制作に取り組む。
2008年FM開局当初から一緒に番組を担当していたパーソナリティーと結婚。2010年3月長男旭誕生。1児の父となる。

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