エッセイを読む

2020年11月

あさひはのぼる

トイレの水はけが良くない。水やお湯、重曹やクエン酸を入れてもうまくいかない。不慣れなのでネットで調べた業者を呼んだが、古い建物だから仕方ない。便器を取り外して修繕しないと詰まりやすくなる等、理由を色々挙げて見積もりを出された。何だか説明不足で不安が募るし、ネットで格安と謳っていた割には随分高いので、こちらが渋ると価格を下げてきた。いささか信用できず。点検代を払って帰ってもらう。もう一つの手段はラバーカップ(スッポン)を使用すること。直ぐにナフコまで買いに走る。スッポンを手にした時「ドリフで使ってたやつだ。本当にこんな道具で大丈夫だろうか」と心配したが、事は一刻を争う。この時期に余計な出費もしたくない。女性店員から「これが一番」とお墨付きを頂いたことで腹をくくり、「ええいままよ!」と便器にスッポンを突っ込むこと数回…「コポ、コポポ、シュポー」と、水が音を立てて勢いよく吸引されていくじゃありませんか!スッポン恐るべし。みたか業者!あっぱれお父さん!これで一安心。

帰宅した旭に顛末を話してやると、旭が「この間の」と言って国語の漢字テストを持ってきた。「パパ何点だと思う?ヒントは…10×10点です」と言うので、?と思った瞬間「100点!?」と素っ頓狂な声を上げたら、旭がジャーンと言って見せてくれた。ホントだ。全部〇だ。凄い。テストの感触を聞いても芳しくなさそうだっただけに一層驚いた。だけど遊びの時間を削って一緒にテスト勉強をした甲斐があったね。「ほら、やればできるんよ。」私は息子の頭をなでながら沢山褒めてやった。無茶苦茶嬉しかったから旭の両手を取って、ジュリー・アンドリュースのようにグルグル回って、笑って、抱きしめてやった。

吉報を祖父母に電話してからが面白い。義母が「やっぱり!普段バナナを一房なんて買わんけど、お父さんがいいよというけ買っとったんよ。これはあっ君にプレゼントするためやったんやね。予兆よ!」と言って大層喜んでくれた。ママは「バナナはお通じに良いしね。何か繋がっとるかも。パパお手柄」と言って労ってくれた。嫌な気運も水に流してこれでスッキリ。ママがバナナケーキを作り、旭がおやつに頂くひと時がしばらく続いたとさ。喜びは分かち合うもの。我が家の運気も上昇中。

  
昇より

山中昇プロフィール

1971年7月14日生まれ。 地元下関の高校を卒業後、東京の大学に進学&卒業。雑誌編集の仕事と、劇団員を経験したのち地元に戻り、1998年地元下関に開局したComeon! FMに勤務。制作部長として番組制作に取り組む。
2008年FM開局当初から一緒に番組を担当していたパーソナリティーと結婚。2010年3月長男旭誕生。1児の父となる。

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