エッセイを読む

2018年05月

あさひはのぼる

 旭を誘って山登りに行きました。今回は雄と雌の鋤先山から竜王山、鬼ヶ城山へと続く「北浦スカイライン」を縦走します。早朝7時に安岡の深坂茶屋に着。ママに見送られて出発です。これまで竜王山を二度、鬼ヶ城を一度登ったことはありましたが、山の稜線を辿る縦走は初めてで、やる気満々の父親の気持ちとは裏腹に、前夜の寝不足と昼から友達と約束のある旭は余り気乗りしていないご様子。でも、ついてきてくれました。

 新鮮で澄みきった空気に包まれた山道に一歩一歩踏みしめる落ち葉の音が小気味よく響きます。遠くから鳥の鳴き声も聞こえ、太陽が昇ってきました。「おっ!あさひはのぼるやん」と調子合わせの声を掛けても、ご本人の機嫌は芳しくありません。やれやれ、今日はどうなることやらと心配しましたが、山は優しく私を慰めるように迎え入れてくれる!と思うことにして登山を続けました。

 整備された階段ルートは単調で辛かったのですが順調に三座を踏破。竜王山山頂で登頂の鐘を鳴らし、ママが作ってくれたお弁当を食べた頃には旭の機嫌も良く、ここから鬼ヶ城へ続くルートは私も初めてなので気合いを入れ直して出発しました。でもまさかあんな山道になっているなんて・・・

 そこは文字通り竜王山の尾根を下る300メートルも続く急勾配でした。何かの弾みで転げ落ちる石の速さを見ても一目瞭然の急坂で、足が滑らないように補助のロープを掴みながら下るのですが、握力が次第になくなり、山深い静けさも相まってこのまま進んでも大丈夫かと心配になりました。旭と一緒に歌を歌って励ましあって、やっとの思いでそこを抜け吉見峠に着いたときはホッとしたものです。振り返ると下ってきたばかりの竜王山が見えます。次のルートが分からず少し迷ってしまい、眼前のこぶ山の向こうに聳え立つ鬼ヶ城をこのまま登るには時間と体力がないことを考慮して峠を下ることにしました。

 お迎えに来たママの車で友達の家まで旭を送った後の車中で「なんか旭、顔つきが変わった気がする」とママが言ったので、私もそう感じたと伝えました。

 次の日はいつもの旭でしたけど・・・気のせいだったのかな?
昇より

山中昇プロフィール

1971年7月14日生まれ。 地元下関の高校を卒業後、東京の大学に進学&卒業。雑誌編集の仕事と、劇団員を経験したのち地元に戻り、1998年地元下関に開局したComeon! FMに勤務。制作部長として番組制作に取り組む。
2008年FM開局当初から一緒に番組を担当していたパーソナリティーと結婚。2010年3月長男旭誕生。1児の父となる。

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