安岡の深坂自然の森キャンプ場で「深坂焚き火の森」という催しを始めた。コロナ禍において不安やストレスを抱えた人々の沈んだ気持ちが少しでも楽になり、コミュニケーション不足をサポート出来ればと思って企画した。薪と焚き火台と椅子・テーブル以外は各自でご準備頂く。飲食自由で炎を囲み、語るともなく語り、森の気配や人の言葉に耳を傾けながら思い思いに過ごす。星と森と焚き火の世界。何もないようで何かがあるのか…得体の知れないプロダクション企画に半信半疑だった参加者も次第に焚き火に魅力を感じ、非日常的な空間に身を置くことを楽しんで下さっているようで、流行りも手伝い概ね好評を頂いている。
初回は両家の両親が参加してくれた。実は一年以上会っていなかった。コロナ以前は旭の誕生日会や運動会、学習発表会にクリスマスなど、事あるごとに集まり親睦を深め、旭の成長を共に喜んで頂いていたが、昨今の事情でそれも叶わず。市内にいる唯一の孫で随分可愛がってもらっていたから、「お元気そうで何より」と久々の再会を喜ぶ姿を見てホッとした。「あれ食ったか。これも食え。」と世話を焼く祖父母に、旭は6年生になったことや運動会があるから見に来てと伝え、「ほれ。」と出されたソーセージやアメリカンドッグを「お腹いっぱい」と言いながらも嬉しそうに頬張っていた。
参加者も様々。設計士やパン屋さん、カフェの仲間やベーシスト、定年を迎えたご夫婦やカメラマンや神父など、お互い知らない者同士が焚き火に集い、自然と言葉を交わす。実は母校の先輩後輩だったり共通の知人がいたことが分かり、「思わぬ出会い」に繋がったので不思議なご縁を結ぶ機会にもなった。旭は会場セッティングで薪を運んで椅子やテーブルを組み立てたり、ママと一緒に火起こしに最適な杉の葉集めを手伝ってくれた。誰に言われた訳でもなく、さつま芋やジャガイモ、そら豆などを手に山の斜面を駆け回って参加者に「おすそわけ」をしていたから、子どもの方が上手にコミュニケーションしてるなと感心した。参加者が連れてきたコーギー犬とも仲良しになって、何度も何度も頭を撫でたり首に纏わりつくので、その愛情表現が意外でママと私を驚かせた。
炎が次第に小さくなる。「ハウルの動く城」のカルシファーのように揺らぐ炎を見つめていた旭が「犬を飼いたい」と呟く。別れを惜しんでいるようだ。「また会えるといいね。」消えていく炎に願いを込めて、会はおひらきとなった。
山中昇