エッセイを読む

2018年07月

あさひはのぼる

 結婚して10年経ちました。私たちはCOMEON!FMという職場を通じて出会い、2008年の開局記念日にあたる7月6日に婚姻届を市役所に出し、その足で近くの「レストランまつもと」で祝杯を挙げ、結婚生活を始めました。結婚前も後も、とかく不器用で思った気持ちが中々伝えられない私のそばでいつも励まし応援してくれたママと、この10年で授かった旭の為に、自分なりに何か気持ちを形にしたいと思って、以前取材でお世話になった豊浦町宇賀本郷に工房「ムクロジ木器」を構える代表の辻翔平さんにお願いして、木の器を贈ることにしました。

 辻さんは、ろくろを廻してノミで木を削りながら器を創る木挽職人で、伸びやかな器の曲線が美しく、手にした際独特のまろみを感じる作品を手掛けており、辻さんにこの話をしたところ、「ただ器を贈るだけじゃなくて一緒に何か作りませんか」と提案され、恐れ多くて尻込みする私に色々アドバイスを下さり、等々辻さんが仕上げた器の裏に私が「結婚10年」を象徴する文字を刻むことになりました。

 数週間後、辻さんから待望の「出来ました」との連絡を受け、宇賀の工房を訪ねました。木の器2つとお皿1つを創って下さっており、波打つ木目が美しい品々を手にすると気持ちが浮足立ち、とても嬉しくなりました。良く見ると器とお皿の底には無数の線が刻まれています。お伺いすると「10年を節目に10本の線を彫らせてもらいました」と仰ったので、その気持ちを有難く頂戴しました。私は試行錯誤の末、家族のイニシャルの頭文字、昇(N)旭(A)奈津子(N)に10年の10文字を横一列に配した象形文字のようなデザインを考え、ハンダゴテを使って器それぞれの底に刻みました。

 家に持ち帰り二人に見せたところ「この器に見合う料理を作ったら楽しそうね」と喜んでくれたのでホッとしました。結婚して10年、手にして香る椋の器に刻んだ文字には、三人で手を取り合って新たな気持ちで歩み始める私なりの決意表明を現してもいるのです。

 
昇より

山中昇プロフィール

1971年7月14日生まれ。 地元下関の高校を卒業後、東京の大学に進学&卒業。雑誌編集の仕事と、劇団員を経験したのち地元に戻り、1998年地元下関に開局したComeon! FMに勤務。制作部長として番組制作に取り組む。
2008年FM開局当初から一緒に番組を担当していたパーソナリティーと結婚。2010年3月長男旭誕生。1児の父となる。

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