エッセイを読む

2019年11月

あさひはのぼる

 今月は、旭が成長するとそっとしておいてもらいたいようなことをやんわり記しておきたい。

 ある日ママが「パパあのね。」と言ってきた。どうしたのと尋ねると、「この間旭が日課をそろえているときにね。」と言ったママが、ためらいがちに微笑み「ああ俺・・・思春期かなって言ったんよ。」「え!?どういうこと?今シシュンキって言った?」私は思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。私自身久しく口にしていない言葉だったので「写真機?」と聞き間違えたし、というか9歳男子がすでに思春期という言葉を知っていることに驚き、「本当にそう言ったの?」と確認すると、ママはうなずいた。

 <思春期とは、二次性徴があらわれ、生殖可能となる時期。11,2歳から16,7歳までぐらいの時期。広辞苑第5版>辞書にはこう書いてある。うん、確かにそうでしょう。私の思い描くシシュンキもそんな感じだ。身体的変化が起きることを想定したし、甘酸っぱい感情に包まれる青春時代のイメージだ。この前も一緒にお風呂に入って確認したから覚えているし、女子は(遊びの邪魔をするから)何かと困ると言うぐらいだから、異性に関心が高いようでもなかったはず…だったのに彼の中で一体何が起こったのだろう。ドキドキなんですけど!

 そんな話をママと交わし帰宅した旭に訳を聞いてみると、どうやら「感情の起伏」に手を焼いているようだった。まず怒りっぽくなったと言った。それに望んでいないこと(恐らく勉強・宿題)をしないといけないことも嫌らしい(オイオイ)。自分から誘わないと友だちが遊んでくれないと感じていることや、できたら小さいころに戻りたいとも言った。理由は好きなことだけして楽しかったから。思春期という言葉は、学校のカウンセラーの先生が「心と体のバランス」について説明する際に教えてくれたそうだ。なるほどね。大人から見ると他愛のないことだけど彼にとっては意外と真剣な事だろうなと慮り、男同士の共感的なことで寄り添い、慰めようとした矢先にママ曰く「つまり習ったばかりの言葉を使いたかったってことね」とバッサリ斬りやがった。いやいやママ、そこじゃないよ。旭、結構悩んでますよ。俺にもシシュンキさせてよと。

これじゃ、サマにならないじゃない

  
昇より

山中昇プロフィール

1971年7月14日生まれ。 地元下関の高校を卒業後、東京の大学に進学&卒業。雑誌編集の仕事と、劇団員を経験したのち地元に戻り、1998年地元下関に開局したComeon! FMに勤務。制作部長として番組制作に取り組む。
2008年FM開局当初から一緒に番組を担当していたパーソナリティーと結婚。2010年3月長男旭誕生。1児の父となる。

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