エッセイを読む

2018年04月

あさひはのぼる

 春休みの間、旭は児童クラブに通うので、ママが朝のラジオ番組担当の日は私がお弁当を作る。と言っても前の晩御飯の残りや冷凍食品、気分次第で味が変わる卵焼きを詰める程度だからたかが知れている。のだがこれが結構楽しくて、ここだけの話、トキメク自分がいる。ご飯に合うふりかけはどれにしよう。赤と緑と黄色の色取りは大丈夫かな。野菜も入れて食べ物が温かい内に冷たい物をそばに詰めない方がいいよねなどと、心の中のもう一人の自分に語りながら作る。作る間は朝の支度に手間取る旭を見ても気にならない。何故だか優しい気持ちになり、その光景がむしろ微笑ましく目に映る。完成したお弁当を写真に撮り出来栄えにヘヘヘ。ママに写真を送りその返信にフフフ。美味しそうと言ってくれる旭にホホホと慈しむように見つめる自分がそこにいる。そう、この気持ち、この慈しむような気持ちは何だろう。この感情の源は何?むくむくと芽生えてくる感情はどこから来てるの?もしかしてこれが母性なのかしらと…母性って男性にもあるんですかね?

 もう一つは父性の話。維新海峡ウォークに親子で参加した時のこと。このウォークは30キロもあり長丁場で大変なのだが、実はスタート後は自由で、体調・体力に合わせて自分でゴールが決められる。私は初参加の旭と相談し中間地点の長府までを目指して歩くことにした。高杉晋作の眠る東行庵を奇兵隊宜しく意気揚々と出発。春爛漫の歴史街道を息子と歩くことが私の夢だったのでそれが嬉しく、道中出会った知り合いに息子を紹介する時は面映ゆい気持ちになった。旭は最初は元気だったものの次第に口数が減り、時間と距離を気にするようになり、等々足が痛くてこれ以上無理と言い出した。長府まであと2キロの所でである。ここまででよしとするのか、同行者の手前親の面子の為に歩かせるか悩んだが、旭の意思を尊重することにした。正直期待したし叱咤激励したら出来たかもしれない。でもそれは親が満足するだけで旭には何も残らなかったかもしれない。父親として複雑な心境になった。その夜、旭が私に「ゴールできなくてごめんね。」と言ってきた。この子なりに期待を感じ取っていたのか。そう思わせてしまったことに申し訳なく思ったが旭の一言に救われた。「来年も歩く」

昇より

山中昇プロフィール

1971年7月14日生まれ。 地元下関の高校を卒業後、東京の大学に進学&卒業。雑誌編集の仕事と、劇団員を経験したのち地元に戻り、1998年地元下関に開局したComeon! FMに勤務。制作部長として番組制作に取り組む。
2008年FM開局当初から一緒に番組を担当していたパーソナリティーと結婚。2010年3月長男旭誕生。1児の父となる。

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