エッセイを読む

2020年01月

あさひはのぼる

 私は今、中高年を対象に昔の古き良き名画を映画館でご覧頂く「下関名画座」という上映会を行っています。毎月一本一日限りのこの上映会では、これまで「禁じられた遊び」や「青い山脈」「死刑台のエレベーター」など、洋画・邦画・国もジャンルも様々な作品を上映してきました。

 上映会当日は家族に協力してもらって運営しています。ママは昔取った杵柄で場内アナウンスとモギリ、旭は「下関名画座こども支配人」を任命され、他のスタッフと一緒にチラシやティッシュを配ったり、トークショー用の場内ライトのスイッチを切り替えたり、お客様の出入りの際に落し物がないか確認してもらっています。これまでにもお財布を落とした方がいて、見つけた旭が届けて差し上げたこともありました。

 先月の作品は愛の物語「追憶」。通常は上映後に作品解説を行っていますが、クリスマス前の上映会でしたので、ご来場者に限り抽選で来月のチケットが当たるクリスマスプレゼント企画を行いました。当たるか否か。その大役を仰せつかったのが我らの支配人旭君です。来月がビートルズの「ハード・デイズ・ナイト」で人気も高く、来場者の期待を背負った重責だと知らない彼は、サンタの赤い帽子を被りステージに現れ出るや、頼んでもないのに自分でマイクを用意して、どこで見てたのかワイヤレスのスイッチも自分で入れて話し始めるじゃありませんか。こどもの登場で場内は歓迎ムードに包まれましたが、私は内心段取りとは違うことに驚き、しまいには作品解説の途中に「次回はその作品だっけ?」と相手のお株を奪うようなことまで話すので慌てました。実はこの日は新聞社の取材が入っていて、記者も彼の振る舞いが気になったのでしょうか。「お子さんも一緒に」と促され、何故か親子で次回作のポスターを持って宣伝し、写真も撮られ、後日新聞に掲載されたんです。その紙面を観た旭は「俺、初めて新聞に載った。自慢できる。また出たい」と言い出す始末。孫の新聞にじぃじばぁばはヤンヤヤンヤの大喜び。

 心穏やかならぬ年の瀬に、忠臣蔵ばりの討ち入りは御免こうむりたい所存でござりますれど、家族に支えられての下関名画座なれば・・・せまじきものは個人事業主なり。

  
昇より

山中昇プロフィール

1971年7月14日生まれ。 地元下関の高校を卒業後、東京の大学に進学&卒業。雑誌編集の仕事と、劇団員を経験したのち地元に戻り、1998年地元下関に開局したComeon! FMに勤務。制作部長として番組制作に取り組む。
2008年FM開局当初から一緒に番組を担当していたパーソナリティーと結婚。2010年3月長男旭誕生。1児の父となる。

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