エッセイを読む

2019年05月

あさひはのぼる

 旭はスイミングに通っています。サッカー、野球、習字に英会話など多々ある子どもの習い事の中で、体力づくりや健康面を考えて勧めたスイミングを、足掛け3年位でしょうか。飽きることなく続けているのだから好きなんでしょう。活発な男の子にとって有り余るエネルギーを発散し、楽しい環境でコツコツ練習を重ねたことで、今では背泳ぎ、クロール、バタフライは25メートル泳げるようになりました。何人かの友達は習い事の掛け持ちをしているようなので、旭に他を勧めたこともありました。因みにママは男の子が弾けたらカッコいいという理由で、ピアノを習わせたかったみたい。私は平家踊りの太鼓なんですけど、遊べなくなるのが嫌だからという理由で見事に却下されました。

 スイミングの施設では子どもが泳いでいる様子を2階から見学できるので、この日も私は旭の練習を見ていました。二人一組で並び、ビート板を使ってバタ足の練習をしていた時の事です。勢いよく飛び出した旭は10メートル過ぎから隣の男の子に差をつけられ始めました。その時です。誰も見ていないと思ったのでしょう。旭は右手でレーンを掴みその反動を使って友達の前に出るじゃありませんか!「あっ!やし(ズル)したな!」と思った私が見てるとも知らず、その後彼は何度もそれを繰り返したのです。呆れる思いで見届け、練習後そのことを旭に指摘するとバツの悪い顔をしていました。でも、俺の子だなと思ったものです。というのも私が幼稚園の時の運動会で旭と同じようなことをしていたから。

 私はリレーに出た時に隣を走るK君とデットヒートになりました。必死だったので実は覚えていないのですが、残された写真が証明しています。事もあろうに私は右手を伸ばし、走るK君の邪魔をしているじゃありませんか。負けたくないと歯を食いしばり行く手を遮るその瞬間と、旭が伸ばした右手が重なりました。「ズルしちゃいけんよ。でもパパも同じようなことをしたことあるよ。」と旭にこの話をしたら、彼は嬉しそうに笑いました。「パパもそうやったんやね」と言いたげに。

 この親にしてこの子ありですね。

  
昇より

山中昇プロフィール

1971年7月14日生まれ。 地元下関の高校を卒業後、東京の大学に進学&卒業。雑誌編集の仕事と、劇団員を経験したのち地元に戻り、1998年地元下関に開局したComeon! FMに勤務。制作部長として番組制作に取り組む。
2008年FM開局当初から一緒に番組を担当していたパーソナリティーと結婚。2010年3月長男旭誕生。1児の父となる。

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