エッセイを読む

2021年04月

あさひはのぼる

 開館20周年を迎えた海響館へ遊びに行った。混雑を避けるため朝イチで並び、「ありがとう20周年~いのちのLIVE」のゲートをくぐり館内へ入ると、フクの提灯がお出迎えしてくれた。エントランス正面の大きなガラス窓の向こうの関門海峡が輝いている。旭はフロアにイラストされたペンギンの足跡の上を辿りペンギン村へ向かった。念願だったこともあり足取りも軽やか。階段を降りると早速ペンギンたちが姿を現した。微動だにしないキングペンギンの横でジェンツーペンギンが水に飛び込む。ガラス越しでも鳴き声が聞こえ、茶色の毛に覆われたヒナの姿も見える。旭はペンギンの鼻先に人差指を指し、あっちむいてホイを始めた。好奇心旺盛なのか。ペンギンは指の動きにつられて同じ動作を繰り返してる。大水槽を高速で泳ぐペンギンに見惚れトンネルを潜る。ここでも旭は泳ぐペンギンにハンカチを振り、動きを止めたペンギンが目を凝らし、左右に首を伸ばして動かすのを面白がっていた。丁度フンボルトペンギンのえさやりの時間と重なり、現れた男性スタッフがクイズを出した。「このお魚は何ですか?」「アジ」「じゃあこれは?」「ししゃも。」他の人もいるのに旭が全て答えたので思わず苦笑い。ママの顔も「前にも同じことがあったね」と言ってる。その時は確かイルカのアトラクションで「巌流島はどこ?」と質問が飛ぶと、旭が「あっちー」と大きな声で指さしたのだ。お正月の出来事で、日体大が箱根駅伝で優勝した2013年だったから旭は3歳。子どもの成長を感じる時であり、それは夫婦にしか分からない記憶でもあった。

 100種類以上の世界のフグの展示はもとより、イルカやアシカ、スナメリやマンボウ、アザラシやチンアナゴにカタクチイワシの群れなど、様々な海の生き物たちの展示は良い得て妙。まさに20年の間に紡いだ「いのちのLIVE」そのもので感動した。春の特別展示「コウイカ」が青白いライトに照らされ宇宙船のようだと感心している横で、「あれは今晩のおかず」と言ったり(本当だった!)、地下のイルカ水槽で、両手を広げた旭と二頭のイルカを上手に撮ると、「パパ、それは#海響館20周年をつけてインスタに投稿して!最優秀賞はゴールドサポーター!終身会員が当たるかもよ!」と息巻く奥様とは「結婚13年のLIVE」を共にしている訳だが・・・それは、私にとって「いのちがけのLIVE」でもあったのだ。なんてね。ちなみに、旭のお気に入りはチンアナゴ。私はハリセンボン。ママは市民が半額なことだっけ?

山中昇

山中昇プロフィール

1971年7月14日生まれ。 地元下関の高校を卒業後、東京の大学に進学&卒業。雑誌編集の仕事と、劇団員を経験したのち地元に戻り、1998年地元下関に開局したComeon! FMに勤務。制作部長として番組制作に取り組む。
2008年FM開局当初から一緒に番組を担当していたパーソナリティーと結婚。2010年3月長男旭誕生。1児の父となる。

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