エッセイを読む

2021年02月

あさひはのぼる

シーモールへ出掛けた。ラジオ局時代お世話になった方への誕生日プレゼントを買うと購買意欲が湧き、旭は黒いズボンと縄跳び、ママはバリカンと文房具、私はユニクロでマオカラーシャツを買った。新しいモノを手にすると気分がいい。「少し冴えない朝は/新しいシャツを着て/昨日とは違う/新しい今を生きよう」とモノの本に書いてあったっけ?ルンルン気分でシーモールを後にした。

岬之町の埠頭に車を停めて昼食をとる。天気よし。海峡は煌めき停泊中の漁船や貨物船の傍では、釣り人らが休日を楽しんでいるようだ。食事を終えた旭は外に出て縄跳びを始めた。彼は自分が「太っている」事を気にしている。私たちはそんなことないよと言うのだが、寒い日なのにしゃっち薄着でいたがる。お気に入りの服は甥っ子からのお下がりのPUMAのパーカーだ。今朝も出掛けに一悶着あってママと言い合いになった。「何でそんな薄着なんかね。外寒いんよ。そんな恰好で出掛けて風邪ひいたらどうするん。GAPにしなさい!!」GAPの応酬にPUMAが気圧され、渋々ママの言うとおりにしてしまう旭だった。

最初は鏡に向かう日が増えたのでお洒落に目覚めたのかと思っていた。でも実際は自分の体型を気にしてスマートに見えるか確認していたのだ。やたら黒を選びたがるのもそんな訳で、やっと合点がいった。旭はTVで縄跳びがダイエットに効くと知り、その方面では知識が豊富で自称縄跳びが得意だったママのアドバイスを受けながら縄跳びを始め、目下二重跳びに挑戦していた。私は縄跳びが好きではない。丁度旭と同じ年頃の時に授業で縄跳びリレーをした際に足が縄に絡まってこけてしまい、左膝を10針以上縫う大怪我をしてサッカーの試合に出られなかった苦い記憶があるから。だから…と私の話はともかく、旭は学校から帰ると縄跳びを手にしてマンションのエレベーター前で跳ぶことを日課にした。散歩の途中で突然始めることもあれば、銭湯の帰りにも関わらず店先で跳び始めた時には流石に呆れたりしたものだが、その甲斐あって彼は二重跳びが連続で跳べるようになったから驚く。体型も身長が伸びた分あまり気にならなくなったような気がする。ここだけの話、ママが毎晩欠かさず旭の体をさすりながら「ひゃくはちじゅっせんち―」と唱え健気に尽くす様子は滑稽で、旭が大人しくされるがままに寝ている姿が可笑しいのだが、このおまじないが功を奏したか。ずんぐりむっくりな両親から果たして身長180センチのメンズが誕生するかしないかは親の愛情次第!?乞うご期待。

山中昇

山中昇プロフィール

1971年7月14日生まれ。 地元下関の高校を卒業後、東京の大学に進学&卒業。雑誌編集の仕事と、劇団員を経験したのち地元に戻り、1998年地元下関に開局したComeon! FMに勤務。制作部長として番組制作に取り組む。
2008年FM開局当初から一緒に番組を担当していたパーソナリティーと結婚。2010年3月長男旭誕生。1児の父となる。

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