エッセイを読む

2024年07月

また、を重ねる

6 月の終わりに、福島へ向かった。7 年前私は、JBBY の希望プロジェクトの一環として南相馬で絵本の読みあいワークショップを行った。私個人としては再訪までの時のブランクが気がかりだったが、他のメンバーの切れ目ない支援のおかげで、打ち上げ花火のような単発イベントにならずにすんだ。点から線へそして面へと、関係の輪を広げていく大切さを今回ほど教えられた旅はなかった。七年前には南相馬の駅にたどり着くのにまだバスしか手立てがなかったが、今回は仙台から鉄道で下りていくことができた。

駅に着くと、呼んでくださった実行委員の方々が「あぁ、またお会いできた」と再会の喜びの声で迎えてくださった。「あぁ」が、ため息でなく、用意された歓迎でもなく、今日までの時間を全部抱え込んだまま今日という日を迎えているという感慨の声に聞こえた。

会場に案内されると、すでに読みあいに使う 100 冊ほどの絵本が、お伝えしてあったリストの中から、きちんと選び出されていた。驚いたのは前回ワークショップで使用した段ボールの面展台二十数個がひとつ残らず保管されていて、絵本たちがきれいにその面展台の上に並べられていたことだ。

「よく取ってありましたね」とつぶやくと、「だって、また使うために作ったんじゃありませんか」とあたりまえみたいに言われた。ハッとする。「また」を信じてくれていたんだ。「また」が大事なことだったんだ。

いざワークショップが始まると、今回もという参加者が多く、盆や正月の親戚大集合のような、なつかしさのある雰囲気で、ワークは終始笑い声が絶えなかった。終了後のサイン会に並ばれていたおひとりが、いよいよご自分の番になると、ちいさな声で「列並んでいる間にお手紙書きました」とメモ用紙を渡してくださった。開いてみると、「前に来てくださったときのワークも楽しかったけど、今回は自分の心が優しく動いたりはずんだりするのが感じられたし、誰かのために絵本を選べているっていうことがとってもゆたかでうれしいなぁとちゃんと思えた」というようなことが急ぎの文字で綴られてあった。そして一番最後に「りえさん、長生きしてくださいね」とあった。

(わぁ、長生きしてくださいかぁ~。ついにわたしも、そんなこと言われる歳になっちゃったんだなぁ)と、その一文だけおばあちゃん気分で苦笑い。でも、何度も読み返していて、いや違うな、そういう意味とぜんぜん違うな、と気づいた。

誰であろうといずれ別れゆくしかないのが、我々人間の定め。その限りある人生の中にあって、出会えたことをよろこびあいましょう。そして、与えられたいのちの時間尽きるまでお互いに何があってもきっちり生きましょう、というこれからの時間についての約束のことばだったんじゃないか。「わかりました。何があってもあきらめずに、このいのちをもって、精一杯長生きしましょうね」とこっそりつぶやいたのでありました。

南相馬から本宮へと移動し、本宮市立しらさわ夢図書館で、再び読みあいワークショップを行った。片道 3 時間近くの道のりを少しも厭わず運転し送り届けてくださった方はもちろんのこと、どの出会いにも感謝感謝の二日間だった。

村中李衣

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村中李衣プロフィール

1958年山口県に生まれる。
大学、大学院で心理学、児童文学を学び
就職先の大学病院で
小児病棟にいる子どもたちと出会う。
以後、絵本を読みあう関係が続く。
現在、ノートルダム清心女子大学教授、児童文学作家。

*著書*
[子どもと絵本を読みあおう](ぶどう社)
[お年寄りと絵本を読みあう](ぶどう社)
[絵本の読みあいからみえてくるもの](ぶどう社)
[こころのほつれ,なお屋さん。](クレヨンハウス)
[おねいちゃん](理論社 :野間児童文芸賞受賞:)
[うんこ日記](BL出版)

ひろば通信、こどもの広場HPで
エッセイ 『りえさんの「あそぼうやー」』連載中

毎月のエッセイは
ひろば通信に掲載されています

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