エッセイを読む

2026年01月

一眼国を訪れ

新年最初の、幼稚園での絵本読み。

選んだのは、川端誠さんの落語絵本シリーズの1 冊、『いちがんこく』(クレヨンハウス)。一つ目小僧ならぬ一つ目娘と出くわし驚いてあとを追った男が行きついた先は、なんと「一眼国」。だれもかれもが、一つ目。肝をつぶしている男を取り囲み「こいつは、なんと目が二つある!」と街じゅう大騒ぎになってしまったというオチだ。いざ読み始めてみると、途中の時代や状況を説明するくだりが、なかなかの文章量。子どもたちが飽きてしまうのではないかと心配したが、いつもと違う趣の語りに、じいっと聴き入っている。

中盤、振り向いた一つ目娘との対面。「うわっ」と声が上がる。「かわいいっ」という声も。
娘を追いかけ走り寄る主人公の男といっしょに、子どもたちの気持ちも、細い山道を追いかけていく。そして、いよいよ、最後のお白洲の場面。二つ目が世にも珍しい生き物として扱われ、オチの一言を言おうとしたら「すごい、この人、もうテレビに出てる!」と歓声が上がる。子どもたちは、川端さんが読み終わったあとのお楽しみとして工夫された裏表紙を「もう出てる!」と自分たち独自の読みに取り込んでしまったのだ。笑わせるはずの私が笑ってしまった。

さて、そのあと、子どもたちが口ぐちに言い始めた。「ねえ、もしゴリラの国に行ったらどうなる?」
そううやねぇ・・・しかたがないので、私は、絵本世界と地続きの不思議な国でも旅するように足踏みしながら唄い始めた。♪も~しもゴリラの国に も~しも迷い込んだなら~
ゴッホゴッホゴッホ ありゃりゃ、こいつ、毛がないゾ、つんつるてんだぁ~
子どもたちは大喜び。次々に、「じゃぁ、キリンの国に行ったなら?」「じゃぁ、ヘビの国に行ったなら?」 どんどん、もしもの国へ入り込んでいく。当たり前と思っていた自分の存在が、物珍しい存在となることを想像世界で経験していく。
ひとりの女の子が「じゃぁじゃぁ、お花の国に行ったなら?」
女の子の問いを引き受け、みんなのからだが、ちいさく縮んで、急に静かになった。あぁお花の国の花畑にしゃがんでるな、と思えた。
♪もしもお花の国に もしも迷い込んだなら~
あらまぁ、おいしいお水を、このひと、コップで飲んでるわ~
みんな、くすくす笑い。それから、ちいさな足をバタバタさせた。お花はコップじゃなくて根っこでお水を吸っていることを確かめてるのかなぁ。自分を基準に世界を括ってしまわないこと。いろんな生き方、いろんないのちのありようを認められる社会を自分の想像力をもって創っていくこと、読みあいの中からも育てていけるのかもしれない。

落語絵本の、始末の良い読み手ではなかったのかもしれない。でもこれが、愛する子どもたちとの、新年最初の読みあい。物語の世界を一緒に旅するちいさな仲間たちとの、自由な読みあいであった。

村中李衣

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村中李衣プロフィール

1958年山口県に生まれる。
大学、大学院で心理学、児童文学を学び
就職先の大学病院で
小児病棟にいる子どもたちと出会う。
以後、絵本を読みあう関係が続く。
現在、ノートルダム清心女子大学教授、児童文学作家。

*著書*
[子どもと絵本を読みあおう](ぶどう社)
[お年寄りと絵本を読みあう](ぶどう社)
[絵本の読みあいからみえてくるもの](ぶどう社)
[こころのほつれ,なお屋さん。](クレヨンハウス)
[おねいちゃん](理論社 :野間児童文芸賞受賞:)
[うんこ日記](BL出版)

ひろば通信、こどもの広場HPで
エッセイ 『りえさんの「あそぼうやー」』連載中

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ひろば通信に掲載されています

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