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2019年07月

こどもの力

 長い間続いているテレビ番組の「はじめてのおつかい」を見るともなくみていたらつい夢中になってしまった。しゅうやくん(4歳3ヶ月)かなやくん(2歳4ヶ月)の兄弟は2時間に一本しかないバスに乗って二人でお買い物に。お父さんの急死後、お母さんを支えていつも手助けしている長男しゅうやくん。お父さんのお供えの花を買ってきてと、大切なお母さんに頼まれれば嫌とは言えない。しかも弟連れ。家から離れて歩き出すこどもの足取りには決意が見える。そんなこどもの映像を見ると大人はつい感動の涙。でも当の子どもはそれどころではない。目的を達成してお母さんを喜ばせようと一生懸命。この二人の兄弟に更に予期せぬことが。弟がおくれながついてきながら「にいに?」と呼びかける。ハッとなったしゅうやくん。駆け戻り「にいにっていえるようになったんか。かなや!」初めての言葉を聞き逃さず弟を褒めて認める。余裕なんてないはずなのに!と思うけれど本当はこどもの「今」はいつだって初めての経験だらけで、一生懸命向き合うことで全て自分の中に知恵や力となって蓄えながら前に進んでいるのかもしれない。買い物をするという大きなミッションがあるのに弟への眼差しが優しい。

 子どもは鋭い。そして大人が常識的に一般論的に「?ではないか?」と考えていることよりはるかに本質的な対応をする。

 先日ある学校での選書会の時、好きな本を読んでいい時間に絵本のところで迷っている女の子がいた。お節介なおばさんはつい「読んであげようか?」と声をかけた。何気なく読んでいた時その女の子の私に寄り添う体の暖かさを感じてハッとなる。人間の暖かさは触れて伝わる命なんだなあと。思わず涙ぐんで、きっと声が変になったに違いない。その子は怪訝そうに私を見つめていたが、ふと更に体を寄せ「悲しい事あった?」と聞くではないか!

 1週間前に母を亡くした私の心の震えを察知しての言葉なのか。素晴らしい力くれてありがとう。

横山眞佐子

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