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2021年05月

生きる

30年も前まだ5坪しかない小さな「こどもの広場」は無鉄砲なイベントを沢山していました。その一つが「こどもの広場シンポジウム」です。海辺のホテルを貸切にし、『赤ちゃんから大人までみんなが楽しみ学び、ちょっと考え深くなる一泊二日』を目指して、同じ思いのボランティアも集う300人規模の会でした。

『子育てや教育』とか『大人や子ども』というように分けるのではなく、みんなで知らなかったことに大喜びしたり深く学んだり。講師陣は各界で活躍中の方々。日髙六郎(社会学者)河合隼雄(心理学者)毛利子来(小児科医)鶴見俊輔(哲学者)森毅(数学者)かしわ哲(うたのおにいさん)小室等(ミュージシャン)角野栄子、スズキコージ、あべ弘士、あまんきみこ(みんな児童文学作家、画家)などなど。書ききれない。

10回開催の9回目、1994年に来ていただいた河合雅雄さん。京都大学霊長類研究所でヒトとサルの進化論や家族論等ユニークな論を展開中でした。講演会では、自分がアフリカで寄生された「ロアロア」という虫の話。ヒトの進化を飛躍的に進める原動力は寄生虫と宿主の共生関係だと思うと言いながら、自身の体内で蠢くロア君との戦いと科学者としての観察考察を面白おかしく話し、私たちはその仮説を眉に唾つけたいけれど、ものすごく納得をして楽しみました。著書も専門書だけではなく、子どもたちも自然の中に分け入って欲しいと「少年動物誌」や、沢山のフィールドワークの中で出会った動物達の暮らしがいきいきと描かれた「河合雅雄の動物記」全8巻の様に物語性たっぷりの本もあります。

動物について書く時、科学的なリアリズムでとらえるのか、ファンタジーの要素の強い物語になるのか、難しいジャンルです。河合さんはそこを軽々と飛び越え、ヒトも寄生虫もゲラダヒヒも生きている友人として付き合ってこられました。

多分私もその一員として端っこに加えてもらったのかもしれません。会場を一緒に歩いている時言われました。「君の歩き方と息の仕方、ちょっと違うね。どこか、不具合があるかも知れないよ」。翌日入院することに。命の恩人です。

2021年5月14日生命を全うされました。97歳。ありがとうございました。

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