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2018年11月

四角い

 アメリカの大学に行っている孫娘が一年ぶりに下関に帰ってきた。ほんの少しの間だったけど若者の面白さを存分に味わわせてくれた。帰るなり車の窓から「四角い!」「また四角い!」「あー、あれも。あれもあれも四角い四角い四角い!!」と言い出す。東京で暮らし、ニューヨーク、ロスアンゼルスと都会ばかりの生活の中で、下関の街中を走るボックスタイプの軽車両が衝撃的だったらしい。私にとっては見慣れた風景を珍しく見る子が面白くて笑い転げながらも、その少し前にチョッピリ仕事で行った上海での自分を思い出した。

 「ぶつかる!ぶつかる!」「車線変更、ウインカー出しなよ!」「割り込み、ひゃー!」広い4車線の道路をブンブン飛ばす左ハンドル、右側通行、ほとんどの車は大型車。その脇をバイクと自転車が猛スピードで沢山走っている。衝撃的だった。

 たしかに都会ではあまり軽車両を見かけないかもしれない。電車、地下鉄などの交通網の充実している東京を、車で移動するのはあまり得策ではない。渋滞、駐車場、車の多さ。それに比べて地方の町では移動手段が限られ、特に子ども連れや高齢者にとっては小回りのきく車が必需品。考えてみたら、上海ではなぜかあまり高齢者を見かけなかったし、東京でも若者率は高い。一方地方では高齢化が進みますますこの格差は大きくなっていくに違いない。

 車一つでも、その場所における文化の違いを感じた。暮らしの必需品のような車は、小回りが利き、足としての機能も十分。あまり負担なく乗り降りができ、頭をぶっつけたりしない車高のある四角い車は最適。一方東京や上海では車は一般的に日々の生活の必需品とはいえない。自分の安全とステイタス。大きくて見栄えのいい、他の人と違う車がいいかも。

 車一つでも生活している場所での当たり前が他の場所に行くと全く違っているということが面白い。今ではどんな物も、どこにいてもネットさえあれば手に入る時代なのに、人の暮らしというのはその場所にピッタリの物を自然に選びとっている。似ているようで違う。あなたのいるところはどんな感じ?

横山眞佐子

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